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第7話『ジャッジング』

モールでの一件から夏休み終盤にかかった今もグループメッセージ含め連絡が取れていない 「三鷹くん大丈夫かな」 「尚道の話だとかなり家庭環境複雑そうだけど俺達からは聞くに聞けないよな」 夏休みとか関係なくおとずれるヒートあけ彩歌と亘流が見舞いに来てくれてずっと踏み込まないでいてくれた二人にあの時の事を話した、流石にお兄さんの発言までは言えなかったしお兄さん自身満身創痍であろう事と三鷹くん本人からブロックしてほしいと言われた事だけ 「……」 正直ヒート中は嫌でも自分がΩである事実を痛感せざるを得ない苦しさもあっていくら多様性や時代の移り変わりがあるとしても根強い思想だ今まで向けられなかった事の方が珍しい 「尚道」 「?」 「どうする、これから」 亘流の言葉に胸がザワザワと煩い どうするかなんて聞かれても 「他人の家の事情なんて俺達がどうこうできる問題じゃないし何も」 「俺は三鷹くんとのことを聞いてる」 「!」 「ちょっと亘流」 「だって彩歌も今回の事で考えただろこのまま曖昧にしていいわけないって」 「それはそうだけど」 「確かに尚道が言うように家の事は俺達じゃどうにも出来ないと思うよまだ子供だし、でもあんな別れ方したままブロックとか言われて連絡も取れないまま二学期迎えるとか俺は嫌だ」 「……」 亘流の言葉に彩歌も黙り込んでしまって俺も何を言えばいいのか分からなくて 「……」 ぃゃ 「……」 分からないんじゃない 「……」 分からないんじゃなくて、おれは 「知らなかった」 「?」 顔をあげられないまま自分の口からは溢れるように言葉がでてきた 「知り合ってまだ三ヶ月だし知らなくても無理ないし当然ではあるんだけど三鷹くんが家族の事で苦しんでる事は知ってて」 ふたりは静かに俺の話をきいてくれた 「無理して笑ってる事も悩んでる事も他にも色々俺は知ってたのに知ろうとしなかった」 傷のことも知ってたのに 嘘だって気づいてたのに 考えなくてもいいって なんとなくでいいって 知らなくても問題ないって 漠然と今が続くんだって 根拠の無い考えだけがあって 『俺、、ちゃんと諦めるから』 あの声が言葉が笑顔が死んだような目が脳裏に焼き付いて消えてくれなぃ胸がずっとザワザワして煩ぃズキズキずきずきと痛ぃ 「家族とか関係なぃ俺は三鷹くんのことを知りたいこれからも友達でいたぃ」 涙と一緒に溢れた言葉をふたりはただ静かに受けとめてくれて頷いてくれて自分でもどうしてこんなに涙が溢れるのか苦しいのか感情の制御がきかないのか理解出来ないことばかりなのについこの間知り合ったばかりなのに彼の存在がこんなにも俺の中で大きくなっていたなんて 「グス…………ごめん、もう大丈夫」 「うん」 数分して何とか落ち着くことが出来た 「とりあえずどう連絡を取るかだよな」 亘流が話を進めてくれて正直有難い 「そうだね、はい尚道ティッシュ」 「ありがとう」 彩歌のこうゆう気配りも有難い 「私からの連絡は返信ないし」 「俺も既読すらつかない」 「尚道は?」 「おれ、まだ送れてなくて」 「まぁブロックしてとか言われたらな」 「無理ないよ私もそんなこと言われたら躊躇っちゃうと思うし何て送ればいいかわからないよ」 「だからって住所も分からないし」 「知ってても突撃は良くないと思う」 「そこなんだよなぁ」 俺なら返事くれたりすんのかな、 おもむろにスマホを手にとるけど でもマジでなんて送ればいいのか 「……」 そこから数十分以上悩みに悩んで迷いながらも勇気をだして絞り出した言葉を送った。 「返信くるかな」 「わかんないけど待ってみよう」 「とりあえず今日一日」 「……うん」 とか話してたら秒で既読がついた。 「えっ早∑ 」 「やっぱり尚道は別枠なのね」 「さすがプロポーズしただけあるわ」 「ちょっと二人ともやめてくれる」 今その話しなくていいでしょうよ 「第一まだ既読がついただけで返信がくるかどうかはまた別の話で」 「あ。尚道尚道。返信きてる。」 嘘っっでしょ!!?∑ 急いで確認すると『わかった』の文字 「マジかよ」 「会う事は出来るみたいだけど場所は?」 「え、ど、ぇ、どうしよう」 そこまで考えてなかった でも日を跨がない方がいい気がするしこのタイミングを逃したらもうとか考えたら何をテンパったのか『彩歌と亘流もいるけど今から俺ん家来てくれたら助かる』なんて送っちゃった 「尚道お前肝座ってんな」 「私びっくりがとまらないよ」 「ぉ、ぉれも、ぇ、ど、どうしよぅ」 我ながら情けない声がでたしとんでもなく動揺してる自分がいる何これ冷や汗やばぃのに再度三鷹くんから『いいけど俺住所しらない』という返信に住所にマッピングしたマップをURLで送信する自分の手早さにパニック 「俺自分がわからな、ぇ、こわ怖ぃ」 「尚道大丈夫私達がついてるから」 「一回落ち着こう尚道深呼吸して」 「ぉ、ぉぅ」 信じていないわけじゃない でも俺はΩで三鷹くんはαだ いくらヒート期間外とは言え俺の部屋とか嫌でも匂いがしみついてる加えてこの前までヒート起こして寝込んでた部屋だ三鷹くんがラットを起こさないとは限らない俺、ぇ、な、え 「ぉ、ぉれの人生終わった……?」 「尚道大丈夫そのっだ大丈夫だから」 「そうっ大丈夫俺と彩歌で守るから」 「ぁ、ぁりがと、ぅ」 二人もそこら辺の知識は授業で得ているぶん慌てながらも擁護してくれて気持ちを落ち着かせながら待つこと約1時間くらいで到着 「お邪魔します」 「ぃ、いらっしゃい」 ワンクッション置くために亘流が玄関まで出迎えてくれて恐る恐る入室。三鷹くん自身も警戒しているのか亘流に自分の前に座ってもらえないかと提案したうえで彩歌と一緒に2mは離れた位置に座ってほしいと言われた。まぁそうなるよね。 「ドア側座ってもいい?」 「ぇと、はい……どうぞ」 「ありがとう」 そのまま皆が座ったけどなんとなく無言。 2週間だけなのに随分と長いこと三鷹くんの姿を見ていなかったような気がする 「井草くん」 「ハイ∑ 」 「気休めにしかならないけどラット用の抑制剤飲んできたからって事を……一応」 ラット用ってかなり強い薬のはずじゃよく見たら顔色もよくないしまさか副作用がでて 「それと早川くんと柄本さんには先に謝っておきたくて返信出来なくてごめん」 「まぁいま謝ってくれたしいいよ」 「私も責めたいわけじゃないから」 ふたりのその返事にすら三鷹くんは顔をあげずにずっと伏せ目のままだった 「ぃ、一応の確認」 俺の声にふたりが振り向いた 三鷹くんは微かに頷いた 「チャンスがもらえるなら話したいってあの言葉は嘘じゃないよね」 「うん」 「踏み込んだ質問になるよ」 「うん」 嘘をつく気はない、よな 「じゃあ俺も向き合うからこっち見て」 俺の言葉にやっと三鷹くんの顔があがった俺は俺で距離は保ちながら彩歌の後ろから横に座り直して目が合った 「……」 「……」 やっぱり恐怖心からか手が震える でも、それは互いに同じだから、 「彩歌亘流」 「?」 「ふたりも言いたいことあると思うけど俺がひと通り聞き終わるまで待っててほしい」 俺の頼みに頷いてくれた。 「ありがとう」 改めて三鷹くんをみた顔を見て話した 「まずその腕の傷」 俺の言葉に亘流と彩歌からは驚いた反応があった怪我のことは話していなかったから当然だ。 「ぶつけたって言ってたのは本当?」 少しの沈黙のあと三鷹くんが首を横にふる 「お母さん?」 「うん」 「それはお母さんがΩて事と関係があるの」 「やっぱり、そこにきづくよね」 「お兄さんのあの言葉きいたらね」 「……」 「言っておくけど三鷹くんがお兄さんの言動について俺に謝る必要は無い」 「……ぇ…………でも」 「三鷹くんとお兄さんは別の人間だよ」 俺の返しに目を丸くして心底驚いて同時に戸惑うような表情をみせる姿に言葉を続けた 「俺は三鷹くんのことを何も知らない。知らないけど俺に向けてくれた笑顔は知ってる俺の前で寂しい、て言ってくれた勇気を知ってる俺や亘流や彩歌を見る優しい目を俺は知ってる」 「……」 「だから謝る必要は無い」 「…………、……」 「家族の事を俺達でどうにか出来るかは正直わからないけど友達やめるとか無理だから三鷹くんは逃げなくていいよ。諦めなくていいよ。」 「…………ぉ、れ……俺」 「うん」 「俺っ、、ホントにぃぃの、まだ早川くんと柄本さんと井草くんと一緒に、いても」 「いてよ」 「……」 「一緒にいて」 俺の返しに三鷹くんが亘流と彩歌を見たふたりが一瞬の迷いもなく『もちろん』と答える姿を見てやっと緊張の糸がきれたのか或いは抱えているものの重さを認めたのか悲鳴とも思えるほどに苦しそうな声で泣いてた、大粒の涙を流した 「ぅぅ……ヒグ」 「三鷹くんはいティッシュ」 「ありがとぅ柄本さん」 「いいよ」 「早川くんも背中ずっと」 「気にしてないよ」 「ぅぅう、ありがどぉ」 わからんでもないけどすげえ泣き顔だな 鼻ズビズビ、目パンパン、顔面ボロボロ 「ホント不器用すぎ」 彩歌が持ってるポケットティッシュから一枚二枚と手にとって三鷹くんの鼻を拭いた顔は枚数が足りないから手で軽く涙を掬いあげるけど窓からの日差しに涙で濡れた睫毛が光ってて 「井草く?」 「やっぱお前って綺麗だよね」 不謹慎だけど気づいたら自分の口から音になって聴こえてきたその言葉に俺を含めた全員が驚いてて一瞬で静まり返るのとほぼ同時に涙を掬いあげていた手を掴まれた ぁ。やばい。 そう頭では理解出来るのに動けない初めて見る三鷹くんの目つきに強く俺だけを求めて見据えるような目に逸らす事が出来なくて振り解けなくて 俺。チョーカーつけてない。 「井、草くんごめん」 ハッとしたように三鷹くんが手を離したそう言いながら後ずさって人影に隠れた 「いきなり、手、掴んで、怖がらせた」 「ぇ、ぁ、ぃゃ、ぁれ、えっと」 呆気にとられていると突然腕を強く引っ張られて部屋の端につれていかれた三鷹くんが見えないように俺の前に座って手を握った 「尚道私を見て私の目を見て」 動けもせず返事もできない俺の顔に『尚道』てさっきより強めの口調で呼びながら両手で強引に顔を合わせるかたちで目が合った 「そのまま私の目を見て逸らさないで」 「……」 「今自分が何処にいるか言って」 「……ど…………こに?」 あれ。俺いま何処にいるんだっけ 「今尚道が話してる相手の名前答えて」 「ゎ、た……ぇと…………ぁゃ、彩?」 あれ。彩……なんだっけ、 あれ。彩、ぁ、ゃ?わた、三鷹く 「尚道!」 「!?」 「私は『彩歌』言って。彩歌。」 「……ぁゃ、か?」 「もう一回」 「ぁ、ゃか」 「もう一回」 「あやか」 「もう一回」 「彩歌」 「そうだよ私の名前は彩歌だよっ尚道」 その瞬間。頭の中でパチンて音が聴こえて一気に夏の蒸し暑さと彩歌の声と甘ったるい匂いと床の冷たさが頭の中に情報として流れ込んできてあまりの情報量にむせ返ってしまった 「ゲホッゴホッ、うっゲホッかはッ」 「ゆっくりゆっくり呼吸して、大丈夫だから尚道ゆっくりで大丈夫だからね」 彩歌の声と背中をさする感触に次第に意識がハッキリしてくる呼吸も落ち着いていく 「最後に一回深呼吸」 「はぁ…………ふぅ……」 会話が成り立つようになったのは腕を掴まれてから15分も経ってからだった。 「ごめん、彩歌ありがとう」 「よかったぁ」 一瞬意識飛びかけてた 今のって確か夏休み前の授業で習った 「俺もしかしてジャッジング状態だった?」 「私もわからないけど多分そうだと思う」 「マ、ジかぁ……ごめん」 「ほんとだよ亘流とふたりで焦った」 「ぁ、三鷹くんはっ」 「今別室で亘流が対応してるけど多分あれはもう少しかかると思う」 「そうか、はぁぁぁ…………悪い事した」 確かジャッジングってΩがαに思考や五感を委ねてしまう事象、だっけ?フェロモンは分泌され無いしヒートみたいな周期も無いけどジャッジング状態はαが拒絶しない限り半永久的に持続されるから気をつけるようにって先生が言ってた 「三鷹くんが拒絶してくれなかったらヤバかった初めてなったけどあれマジやばい思考が止まるとか真っ白になるとかそんなレベルじゃなぃ」 「あの状態で拒絶できた三鷹くんすごいよ」 「だよなぁ………………ぅゎ罪悪感がぁ」 ジャッジングってラットの3倍とか言われてるくらいαの脳を支配するから拒絶するの難しいらしいしΩぶんの思考と五感も担う事になるから心身への負担がとてつもなくでかく、ぁぁあ゛ 「トラウマを与えてしまったかもしれない」 「尚道の落ち込みようが尋常じゃないんだけどあとでちゃんとお礼はいいなよ」 「……はい」 それから更に15分程経った頃に亘流に手をひかれながら三鷹くんが戻ってきた 「本当に申し訳ありませんでしたっ」 俺はもう土下座する勢いで謝罪したよね 「井草くん∑ 待っそんな俺大丈夫だから」 「でもあれは完全に俺が悪いし」 「悪いとゆうかジャッジング自体本人がやろう思とって出来るものとかじゃないわけだし先生も起因はまだ解明されてないとも言ってたし、ぁの、そのぇとだから一概に井草くんが悪いとかそうわけではないと思うしっだから、ね?」 すごく擁護してくれてるけど明らか疲弊してるしさっきより顔色わるぃ 「ごめんなさぃ」 「そのぁのぇと、ぁぁの、井草くん頭あげてお願い心が痛いよぉ」 …… …… …… 少しきょどりながらも頭をあげる俺にあわあわとしながら三鷹くんからの大丈夫だから元気だからね〜アピールがすごい 「気にしなくて大丈夫だよ?」 これ以上は逆に困らせちゃうよな 「わかった」 頷く俺をみてホッとした様な表情をみせる彼に少しだけほんの少しだけ心がふわってした// 「あと拒絶してくれてありがとう」 「ぁ、うん、えっとラット用の薬飲んで来たのがよかったのかなぁ〜、ぁはは……はは」 どこか哀しそうに笑顔を作りながらそう話す姿に動揺してしまった、仮にも俺のことを好きだと言ってくれている相手に拒絶してくれてありがとうだなんて、でも、それは運命の番なんて言葉に踊らされてるだけで時期が過ぎれば 「でもホント井草くんが無事でよかった」 「?」 「これからは俺も気をつけるね」 ──ぁぁこれガチだ。本物だ。三鷹悠太は本気で俺のことが好きなんだと自惚れずにはいられないほどに、とても哀しくて甘い匂いがして 「そぅ、だな」 ──彼の気持ちには応えられないのにその匂いが鼻をくすぐる度に大切だと言われているみたいで酷く熱を帯びた自分の顔を隠してしまった。

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