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第6話『お出かけ』
「ごめんお待たせっ」
「大丈夫」
「気にしてないよ」
「俺達も今集まったとこだし」
「三人とも優しぃありがとう」
学校が夏休みに入りグループメッセージでのやり取り中に彩歌からの提案で四人で出掛けることになった。今日がその日。
「じゃあ早速向かうか」
「はーい」
そう言いながら歩きだした亘流に俺達も後ろをついていく。
「四人でのお出かけって初めてだよね私すごく楽しみで昨日寝付けなかったよ」
「彩歌って昔からそうだよね遠足とか運動会とか行事ごとの前日眠れない」
「だって楽しみなんだも〜ん」
「てゆうかちゃんと前みて歩けって」
「大丈夫大丈夫〜亘流心配しすぎ、ゎ∑ 」
亘流が注意した矢先につまづいてるし。
転けかけた彩歌の腕を掴んだ亘流を気まずそうに見上げる姿も『だから言ったのに』て呆れながら話す姿も今まで何回見た事か。
「ご、ごめぇん、ありがとう亘流」
「せっかくお洒落してきたわけだし服汚したくないでしょ楽しいのは分かるけど気をつけて俺的には怪我してほしくないし」
「ハイ、すみませんでした」
「気をつけてくれればいいよ」
「……亘流おこってる…?」
「なんで?」
「亘流も尚道も三鷹くんも動きやすい格好だし私も合わせた方がよかったかな、て」
「え。ぃゃそれは別だろ合わせなくても今日の格好も可愛いし似合ってるよ」
「……ぁ、ぁりがとぅです//」
んーー、俺は見慣れてるからいいけど
「早川くんてナチュラルイケメン?」
「彩歌にだけはそうだね」
二人の少し後ろで俺の横を歩きながらそのやり取りを見ていた三鷹くんから予想通りの質問がきてこちらもこちらで会話が始まった
「井草くんは慣れてるの?」
「こうゆう場面?」
「うん」
「まぁそうだね二人とも昔からあんな感じだったけど恋人関係になってからは堂々とできてる感はあるかな」
たぶん幼なじみって枠から抜け出せないからお互い遠慮してた部分があったんだろうな
「かと言って彩歌も亘流も俺を弾くとか無いし終始あーゆう状態なわけじゃないし一緒にいる俺も俺で気にしてない」
「そっか」
「?」
「やっぱり三人は仲良しなんだね」
そう言って前を歩く二人を見る三鷹くんの表情も声色も柔らかくてあたたかくて
「……」
すげぇ優しい目つき
「……」
「……」
俺達の仲に三鷹くんが加わってから何かが大きく変わったかと言ったらそんな事はなくて連絡先を知ってからも個人的なやり取りがあるわけでもなく基本は四人でのやり取りのみ
「井草くん車来てるよ」
「ぁ。ぉぅ。」
なんか何気に車道側に移動してくれた
「天気がいいねぇ」
「そうだな」
強いてあげる変化があるとすればグイグイきていたゼロ距離アピールが若干変わった事くらい
「……」
アピールの内容は変わらないけど物理的な意味でちゃんと距離をとってくれてる横を歩いてる今も大体50cmくらい空いてるし、ん?
「三鷹くん」
「ん?」
「どうしたのそれ」
「え」
「ここ。怪我?」
さっきまで俺の左側を歩いてたから分からなかったけど三鷹くんの右二の腕の内側に湿布みたいなものが貼ってある
「ぁぁちょっと昨日ぶつけちゃって」
そんなとこどうやってぶつけて?
「大きめの服だし湿布も同系色だから見えないと思ったんだけどミスったミスった」
「……」
「痛みは無いし一応の湿布だから全然大丈夫だけど早川くんと柄本さんには秘密でお願い変に心配かけたくないからさ」
「わかった」
「ありがとう」
明らかな作り笑顔、、これ
踏み込まない方がいいのか
「尚道〜三鷹くん〜信号青だよ!」
「二人ともはやく来いよ!」
「ぁ、おう!」
「今行く〜!」
今日は遊びに来てるわけだし痛くないなら気にしなくても大丈夫だよな
「何話してたの?」
「今日天気いいね〜て話してたんだよね」
「うん」
まぁ嘘ではないな。
「確かに三鷹くんの言う通りだし晴れてるけど暑過ぎなくて過ごしやすい天気〜」
「ね〜」
「前から思ってたけど彩歌と三鷹くんて何気テンションの持っていき方似てる」
「それ俺も思ってた」
亘流の言葉に思わず『やっぱそうだよね?』て返すと笑いながら頷いてくれた
「彩歌ってマイペースなとこあるけど三鷹くんも結構マイペースな部分ある感じ」
「毎日グイグイくる度胸もあるし」
「尚道最初すげぇ嫌がってたよなw」
「だって初対面がアレだったから」
「それは否めない」
「でしょ」
やっぱ亘流からみてもあの出会い方はインパクト抜群だったんだなぁとか思いながらも深くは考えてなくてその後も予定通り映画を見たりウィンドウショッピングしたりゲーセン行ったりフードコートで他愛もない会話をしたり、楽しい一日が過ぎて気づいたらそろそろ帰らないといけない時間
「ごめんねまだ明るいのに私の門限に合わせてもらっちゃって」
「仕方ないよ」
「心配な気持ちわかるし」
「柄本さん女の子だもん」
「ぅぅ、三人とも優しいよぉ」
「また四人でお出かけしたいね」
三鷹くんの発言に彩歌はノリノリで絶対行こうねなんて返すけど
「でも今日は今日でもっと遊びたかったのにお父さんは心配しすぎなんだよ」
なんて少し拗ね気味に口を尖らせた
「まぁまぁ」
「17時なんて早すぎる!」
「彩歌どうどう。深呼吸。」
亘流に窘められて深呼吸
「とりあえず帰り道でスイーツのお店とかあったし食べ歩きもできるじゃん?」
「確かに亘流の言う通りかも」
「今から歩いていけば時間もあるし」
「確かに〜わたし帰り道も楽しみぃ」
さすが亘流。
一気に上機嫌になったわ。
「早川くん柄本さんの扱い上手いね」
「昔から亘流が窘めてたから」
「なるほど」
「あと彩歌が前向きなのもある」
「確かに柄本さん明るいもんね」
そんな会話してたら亘流からなんの話か聞かれた彩歌は御手洗に行ったらしい。
「井草くんから早川くんと柄本さんは昔から仲良しなんだよ〜て話きいてたところ」
「はっ!?///」
「あれ?違ったっけ??」
「ぇ、、尚道」
「いやいやいやっ違うぁぃゃ違わないけどそんなどストレートには言ってない!」
「へぇ」
これ絶対信じてない方の『へぇ』だよ『否定はしないけどもう少し段階踏んでからそこら辺の話題はふるべきでしょ』て目だよ
「…………三鷹くん嫌い……」
「えっなんで!?∑ 」
語弊がある言い方しやがって
「ご、ごめん」
しゅんとした表情に少し罪悪感
言いすぎた、かもしれない……
「別に謝る必要ない」
「でも」
「怒ってないし悪気ないのは分かるから落ち込まなくていいって意味だから」
「そう言うことなら、わかった」
まじでコイツといると調子狂う
「尚道って当たりきつい割には三鷹くんに優しいよね」
「うるさいな//」
そのタイミングで彩歌合流。
「じゃあぼちぼち帰るか」
「食べ歩きへGO!」
「柄本さん楽しそう」
「実際楽しみなだけ」
歩きだしてモールの1階まで降りた時に三鷹くんのスマホに通知音が誰からだろう
「ごめん皆」
「ん?」
「俺一緒に食べ歩きできそうにない」
え
「どうしたの」
「何か急用?」
「うん。今連絡が入って断れそうにないからホントごめんね」
「まぁ断れないなら仕方ないか」
「そうだね、じゃあじゃあまた今度一緒に食べ歩きに行こうねっまた四人で!」
「勿論、ありがとう柄本さん」
この笑顔
この声色
「井草くん」
「ぁ、はい」
「さっきはごめんね」
「……」
「じゃあ三人とも帰り道気をつけて」
「三鷹くんも」
「気をつけて帰ってね」
「うんまたね」
そう言って俺達とは逆方向に歩く背中にどうしてか胸の辺りがザワザワと煩くて
「尚道いこう」
「ぁ、ぉぅ」
すぐ俺達も俺達の帰り道に向かうけどどうしても気になって振り返ってしまった
……
……
……
「亘流彩歌ごめん」
「え」
「ちょっと待ってて」
「あっおい尚道!?」
「急にどうしたのっ」
今。確かに見えた。
角を曲がる瞬間ツラそうな顔してた
三鷹くん右腕の傷ら辺を押さえてた
急いで引き返したけど曲がり角から先に三鷹くんの姿はなくてどうしよう何処に行ってもしかしてどっかの店に入った?でもここら辺はオープンな店ばっかで店内見えるのにいないし違う出入口に向かった?ここから一番近い出入口は?
近くにあった地図を見てみると今の曲がり角のすぐ横にあるエスカレーターで地下駐車場にいけるみたい、行くだけ行ってみるか
どうしてこんなに胸がザワつく
どうしてただの友達なのに
どうして、どうして、こんなに
「いいから早く乗れよ」
?あれは三鷹くん、と誰だ
「時間がないっつってんじゃん!」
「ごめんなさい、乗るからその」
「遅いんだよッもたもたすんな!」
「三鷹くんッ!!」
後先なんて考えてなかったと思う驚く二人の間に入って無理やり引き剥がして三鷹くんと一緒に数歩下がって距離を置いた
「……ぇ……な、なんで……?」
「誰。君。」
「同じクラスの友人です」
「友人?」
イラつきと焦った様な険しい顔で話しかけてきた相手に俺だって恐怖心が無いわけじゃない、それでも俺の横で真っ青な顔をしてる彼が腕を掴まれて痛そうにしていた彼の姿が見てられなくてそれが見えてない相手に無性に腹が立った
「悠太。本当にクラスメイトなの。」
下の名前で呼ぶ間柄?
無言で頷いた三鷹くんに相手は俺に視線を戻して深いため息をついた
「悪いけどこっちは急いでるから邪魔しないでくれる説明してる時間も無いし」
「でも恐がってます」
「……」
「腕掴まれて痛がってました」
「それは悠太がもたついてるからで」
「第一貴方は誰ですか悠太悠太って」
「……はぁ、俺は三鷹択人」
三鷹?
「君の横にいる悠太の兄だよ」
びっくりして振り向くけど否定しない姿に一瞬状況が呑み込めない
「じゃあそう言う事だから。」
そう言って近寄ってくる兄と名乗るその人から咄嗟に三鷹くんを背に後ずさる
「ぁあもぅ面倒くさいなァ」
本当にお兄さんなのか
だって兄弟でこんなっ
それに家族仲は悪いわけじゃないって
「ほ、本当にお兄さんですか」
恐る恐る尋ねるとまたため息をつきながら財布を取り出すと免許証を見せてきてそこには確かに三鷹択人と表記されていて顔写真も同じ
「これで満足?」
「……」
「てゆうかマジでヤバいんだよ母さんが家で暴れててあれは悠太がいないと無理な状態だから迎えに来たのになんでこう面倒事ばっか」
わからなぃ
どうゆう事
暴れてる?
三鷹くんじゃないとって?
「なんで俺ばっかっ全部父さんが劣等種のΩなんか嫁にしたせいだ!!」
…………
「井草くん」
「三、鷹く」
「ごめん」
「……」
「もしチャンスがもらえるなら話したいけどそれは俺のわがままだから、これは許されるべきことじゃないから、俺とはもう関われない関わりたくないって少しでも思うならブロックしてほしい、俺、、ちゃんと諦めるから」
初めてこんなに生気のない目を見た
「兄ちゃんごめんね」
三鷹くんはとてもとても穏やかな声でそう言うと苦しそうに顔を覆っているお兄さんの方へ歩いていってお兄さんも謝ってて
「わるぃ、、でも俺じゃダメで」
「今朝まで体調良かったからって甘い考えで出かけた俺が悪いかったんだよ仕事あるのに迎えに来させてごめん、帰ろう」
お兄さんは暗い顔のまま返事は無しに車に乗ったエンジンをかけた
「あっ尚道いた」
「本当だ、ん?三鷹くんもいるじゃん」
彩歌と亘流の声がきこえた
後ろから足音が近づいてきた
「急に走り出すからびっくりしたよ」
「三鷹くんのこと追いかけたの?」
「……」
「……尚道?」
「柄本さん早川くん」
「?」
「井草くんのことお願い」
「え」
「じゃあばいばい」
「え、ちょっと三鷹くんっ」
ドアの閉まる音がした
車が横を通り過ぎて行った
彩歌も亘流も戸惑ってる
「尚道とりあえず座って休憩しよう」
「顔色よくないし俺おばさんに連絡入れてくる」
さっきお兄さんが言ってたあの言葉
『なんで俺ばっかっ全部父さんが劣等種のΩなんか嫁にしたせいだ!!』
三鷹くんの家のことは今の一幕だけでわかりきれるものじゃないし詳しい事は分からないしお兄さんも苦しんでいるのは明らかだった
「……」
それでも初めて明確にΩを差別する言葉を目の当たりにして頭が真っ白になった
「……」
謝られて悲しかった
「……」
彼に謝らせてしまった
「……」
俺は三鷹くんのことを何も知らない。
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