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05さすがの俺でも、どうしようもない
「サシュは俺のような二つ名が欲しいのか? 俺はいらんけど」
俺は宿屋の裏にある小さな空間でサシュと木剣で戦いながら聞いた、サシュは俺の攻撃を避けるか受けるので精一杯で最初は返事が返ってこなかったが、やがてこう俺の問いに答えた。
「二つ名は問題ではないです、カイトみたいに強くなりたいのです」
俺はそのサシュの答えを聞いて俺との訓練で剣術は身につくかもしれない、でも俺のように強くなるのは無理だと思った。それを聞いてサシュがガッカリするのは可哀そうだ、だが言わないわけにもいかなかったから一旦訓練を止めた。
「それだと俺との訓練だけじゃ、多分無理だ」
「え? そうなんですか?」
「俺が”疾風”って呼ばれてるのは、特殊な魔力の使い方をしてるからだ」
「風の剣が何本も出たり、風自体を攻撃として遠くまで飛ばせたりできるから?」
「そうそう、俺って規格外で詠唱なしで、魔法を使っているようなものなんだよ」
「そっ、そんな技!? ……ずるいです」
俺はサシュからずるいですと可愛くむくれられたが、これは俺が異世界人だからか、それとも俺自身の体質なのか分からなかった。俺は詠唱なしで風の攻撃ができる、だから剣がなくたって戦えるし、しかも俺の体はあり得ないほどの魔力を持っていた。俺はずるい、ずるいとすねるサシュを宥めながら宿屋にはいって、少し遅めの朝食にすることにした。
「カイトは何者なんですか? どうしてそんな才能があるんです?」
「前に言ったろ、異世界から来たからかな? 気がついた時にはもうこんな体質だった」
「ええっ!? ニホンって異世界なんですか?」
「そうだ、言ってなかったっけ。日本は異世界で俺はそこから来た」
「むぅ、それでもずるいです。僕もそんな体質になりたいです」
「俺もなにがどうしてこんな体質なのか分からん、だからそれはちょっと無理だな」
朝食をいただきながらサシュと話し合ったが、サシュの願いは俺には叶えられなかった。サシュはむぅとふくれていたが、そんな顔もサシュがすると可愛いだけだった。それに剣術や魔法を学ぶことは強くなる一歩だと説明して、それにはサシュも同意して納得した。だからサシュは学ぶのを諦めなかった、暇があれば剣術も魔法も勉強していた。そして朝食後は冒険者ギルドに依頼を受けにいった、残っている依頼は二つしかなかった。
「今度の依頼はなんだ? ウルサンの村に出たサイクロプスの討伐か、森の中に生えているサララン草の採取か」
「カイトはどっちを受けますか? やっぱりサイクロプスですか?」
「いや、サララン草の方にしておこう」
「意外な選択です、カイトはサイクロプスと戦いたくないですか?」
「俺はできれば誰とも戦いたくない、そんな平和主義者だ!!」
「はい、それではサララン草のことを図書室で調べて行きましょう」
サララン草とは火傷によく効く薬草だった、白い葉っぱが特徴で森の中に入ると、数時間で問題なく必要な分を採取できた。森にも深く入ると狼や熊が出たりするから、この薬草採取も完全に安全だとは言えなかった。だからこそ冒険者ギルドの依頼になっているのだ。
「サイクロプスの方、誰かが退治してくれたでしょうか?」
「冒険者は俺だけじゃないんだ、きっと他の冒険者が頑張ってくれたさ」
「それならばいいのですが、サイクロプスはとても強いモンスターだと聞いています」
「確かに強いモンスターだな、俺も一回戦ったことがある」
「やっぱりカイトがサイクロプスを退治しに行くべきじゃないですか?」
「俺は冒険者仲間を信じてる!! きっと誰かが退治してくれているさ!!」
しかし、サイクロプスの依頼はいつまで経っても、冒険者ギルドの壁から剥がされることがなかった。しかもこのトレンデの街に一直線に近づいているという話だった、俺はまさか俺が戦うことにはならないよなと思っていた。そう、思っていたかった。
「カイト、サイクロプスがこの街のすぐ外に来ているそうです。それと冒険者ギルドの方がお見えです」
「嘘だろ~、嘘だと言ってくれ~」
結局、街の外壁を壊して侵入してきたサイクロプスと、俺は冒険者ギルドからの要請で戦うことになった。
「カイトの腕は知っていますが、危なくなったら逃げて下さいね」
「おう、分かったよ。サシュ、遠くから良い子で見物してな」
俺はサシュを俺の目が届く範囲で安全な後方に下げて、サイクロプスと戦うことにした。既に何人かの冒険者や街の兵士が挑んで死んでいた、俺は三メートルはあろうかという筋肉が発達した単眼の化け物と戦うことになった。
「まぁ、まずは足だな」
俺はなるべく目立たないようにサイクロプスの、奴の足元に滑り込んで右足を斬り落とした。右足がなくなって奴が驚いているうちに風の力でジャンプして左腕も斬り落とした。ぎゃああぁと悲鳴を上げるサイクロプスの首を最後に斬り落として終わりだった。俺としては風の魔法も最小限しか使わずに目立たないように倒した、そして俺が倒したのだからサイクロプスの魔石を貰っておいた。
「うおおお、さすが”旋風”だぜ!!」
「あんな最小限の動きでサイクロプスに勝っちまった!!」
「風の一撃ってやつか、あの魔物の皮膚は固いのに凄い!?」
「”旋風”の名に曇りなしだな!!」
「凄い、二つ名持ちは違うぜ!!」
俺がサイクロプスを倒したのはいいのだが、”旋風”の名前があちこちで飛び交っているのは何故だ。さては冒険者ギルドの連中、情報をもらしやがったなと俺が思っていたが違った。
「サシュのご主人は”旋風”です、だから勝ちました!! 凄いです!!」
情報をもらしたのは冒険者ギルドではなくサシュだった、あとでお尻ぺんぺんのお仕置きだなと俺は思っていた。そうして俺はサシュのところに行こうとしたのだが、小さな石を誰かから投げられた、俺がひょいっと避けてその相手を見てみるとサシュより小さな女の子だった。
「あんたがもっと早く戦ってくれたらよかったのに!! そしたら私のお父さんは死なずに済んだのに!!」
「………………」
そうして俺はまだ幼い泣いている女の子をその場に残しサシュのところに戻ってきた、サシュは大喜びで俺に抱きついてきたそして怪我が無いか確認していた。その夜は俺はなんとも気分が悪かった、俺があの子の父親を死なせたわけではなかった。でも確かに数日前に俺がサイクロプスと戦っていたら、あの子の父親は死なずに済んだ可能性が高かった。
「……カイト、……”旋風”、……強いです」
「呑気な顔で寝ちまって、そんなに無防備だと食っちまうぞ」
俺はサシュを”旋風”の名を広めた件でお尻ぺんぺんの刑にしたが、サシュはそれでも嬉しそうだった、自分のご主人様が強くて誇らしいのだ。興奮してなかなか寝なかった、そうしてやっと俺の腕の中で寝てくれた。でもそのサシュのご主人様である俺は、無駄だと分かっていてそれでも小さい声で誰かに謝った。
「俺は万能じゃないんだ、ごめん」
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