26 / 30

26吹き飛んだって、仕方がない

「俺、よく考えてたんたけど……」  俺とサシュは今夜もトレンデの山に来ていた、それはいいのだがまた敵がゴーレムをあちこちに配備していた。でも、これってよく考えたらと思って、俺は敵が潜伏している穴の中に新しい穴を作った。そして、思いっきり中に向かって風の魔力も使いこう大声で言ってみた。 「奴隷誘拐犯の大馬鹿野郎――――――!?」  すると相手のゴーレムが素早く動き出し穴に、…………穴の中に入って来れずにじたばたしているようだった。前に見たゴーレムの大きさと穴の大きさからこうなるんじゃないかと思ったんだ、ちなみに風に耳をすますとこう言い争っている人間が二人いた。 「てめぇは馬鹿か!? この大魔法使い様よ!?」 「私は馬鹿じゃない、ちゃんと注文どおりゴーレムを作ったし、そのゴーレムは動いている!!」  俺たちは闇を使ってさっとその場に移動して、俺は風の魔力を剣にこめて振り下ろして二人の敵を殺した。それからはそんなに苦労することもなかった、この人工的に作った穴でできている誘拐犯のアジトは、人が一人だけ横は多くても三人くらいしか通れなかった。つまりは俺が風の魔力を使って攻撃したらそれだけで死ぬのである、怖いのは挟み撃ちくらいだったが、敵ももうそんなに数が残っていなかった。 「子猫ちゃん、こんな道の中に一カ所だけバカでかい空洞がある。間違いなく敵の中枢部だ、心の準備はいいか?」 「はい、”精霊の加護を受けし選ばれた者”さんと一緒にいれば平気なのです」 「それじゃ、行くか」 「はい、行きましょう」  俺たちはお散歩でもするかのように敵の中枢部に向かって歩いていった、時々敵がでてきたが俺の風の魔力を込めた攻撃を避けれる者はいなかった。そうやって歩いていたらようやく広いところに出た、でも酷い匂いと邪悪な気配でそこは満ち溢れていた。かなりの大きさの血でできた魔法陣があって、前に聞いた神官なのだろうか顔をすっぽりと隠している三角の黒いローブを着た者たちがいた。十人くらいはいたが、その中の一人が進み出てきてこう言った、男か女かも判断しづらい声だった。 「随分と我々の邪魔をしてくれたな、ルクスス片付けろ!!」  そいつがそう言うと黒いローブの集団の中から、黒いローブを引き千切って茶色い髪に赤い瞳の筋肉がついた剣を持った大男が現れた。俺がここまで来ないうちに風の魔法で殺そうとしたが、何とルクススという男は勘で風の刃を避けやがった。 「子猫ちゃんは闇の中に!!」 「はいなのです!!」  俺はサシュを闇の中に避難させておいてルクススを迎え撃った、俺の風の魔力をこめた黒いロングソードもこいつの剣にはじかれた。二、三回打ち合ったが剣の腕はおそらく向こうが上だった。だから俺は剣の腕で勝つのは諦めて魔法でルクススを包み込んだ、そうしたらルクススは剣を落として胸をかきむしり死んだ。俺が空気中の酸素を奪ったせいだった、やむを得なかった勝つ為には手段を選んでいられなかった。 「聖女を奪い、ルクススまで倒すとは、だが聖女を使わずとも時も生贄も満ちた!? 我々には神がついている!!」  そう言って神官たちが何か呪文を唱えると、とたんに周囲が熱くなり魔法陣の中から赤いマグマでできた人の頭らしきものが現れた。 「おおお、神よ!! 貴方を信仰せぬ。愚か者をお殺しください!!」  その言葉と共に熱いマグマの右手が現れたので、俺はサシュを闇から出して抱きかかえ宙を飛んで避けた。だが二本、三本と次々と溶岩の手が現れたので飛ぶのが難しくなった。 「大丈夫ですか!?」 「溶岩の手だけで暑くて堪らん、これ以上マグマの手が増えるとマズイ!!」 「そうだ、これを使いましょう!!」 「カタラータから貰った石か!?」  マグマ……、暑い……、蒸気……、光と水の力が入った石……俺はある可能性に思い当った。 「光と水よ助けてください!! えいっ!?」 「それは駄目だ!! くそっ、しっかり俺に捕まってろ!!」 「え?」 「行くぞ!!」  俺はサシュが投げた物が落ちるのを風で遅らせて、その隙に同時に横穴を掘らせ影を作った。そして俺とサシュが影を使って、風を使って加速して影の闇に飛び込んだ瞬間に、俺はトレンデの宿屋の裏に移動するように闇の精霊に命じた。 「間に合え!?」  どっごぉがぁががががあぁぁ――――ん!! 闇から出た瞬間に山の方で物凄い音がした、俺は……俺は生きてる、サシュも気絶していたがしっかりと生きていた。俺は良かった、間に合ったと思ってホッとした。あれは俺が思うに水蒸気爆発が起こったのだ、水蒸気爆発というのは水が熱せられて急激に気化し、高温・高圧の水蒸気となることによって起こる爆発のことだ。 「いや、まぁ邪神の殺し方とか知らないし、これで良かったのかもなぁ」 「ぷっはぁ、何々どうなりました?」 「今からどうなったか、丁度見に行くところだ」 「そうですか、それなら一緒に行くです」 「ああ、一緒にな。驚くなよ」 「驚く時には驚きます」  そうサシュに言っておきながら俺も驚いた、トレンデの山が街から離れていたからいいものの、山は前と全く違うふうに形を変えていた。深夜だからよく見えないところもあったが、とにかく誘拐組織のアジトどころか山がぶっ飛んでいた、そこには熱せられた岩盤が転がっていた。その何の神様だったのか分からないが、邪悪な神の気配だってもうそこには感じられなかった。水がマグマの熱で膨張してと山を吹き飛ばし、光がその後を浄化してくれたのかもしれなかった。 「あーはっはっはははっ、綺麗さっぱり吹き飛びやがった。見物だったな」 「トレンデの街に被害が出なくて良かったです」 「あー、なんか体の中で精霊たちが喜んでる気がする」 「それはそうでしょう、こんなもの滅多に見られないですよ」 「お互いにな、そしてお前が無事で良かった、サシュ」 「カイトもですよ、カイトも無事で良かったです」  俺とサシュは深夜のトレンデの空で抱き合ってキスし合った、本当にお互いに無事で良かった。それから被害状況を確認しながら空を飛んでいた、トレンデの山は形を変えでも静かにそこにあった。 「邪悪な神は倒せましたか?」 「ああ、あんたがくれた物でなんとかな」 「とっても役に立ったです」  そうして深夜こっそりと宿屋に戻ると、カタラータが俺たちの部屋の前で待っていた。彼女はあの邪神のことを知っていたのだろう、そして退治する方法を俺たちに渡したのだ。 「それは良かったです、急ごしらえのお守りでしたから心配で、心配で」 「え? あれで邪神が倒せるとか知ってたんじゃないの?」 「ただのお守りだったのですか?」 「私の神が作ってお二人に渡せと申したのです、私には何が起こるか分かりませんでした」 「神様だけが知ってたってことか」 「僕たちも信者になったほうが良いでしょうか?」 「信者は随時募集しておりますが、強制はしませんよ」 「ふーん、後でその神様についてとか聞かせてくれ」 「僕も一緒に聞くのです」  そうしてその夜はカタラータと離れて俺たちは眠ることにした、俺とサシュもさすがに今日はエロいことをする気にもなれず、風呂に入ってちょっとお互いにキスをしたらすぐに眠ってしまった。翌日はもちろん昨日のことが話題になっていた、サシュのキスで起きて朝飯を待っている間だけでもこれだ。 「トレンデの山がぶっ飛んだってな」 「すっげぇ音がしたぜ」 「ああっ、聞いた」 「なんだろう、凶兆かな」 「まぁ、お偉いさんが判断するだろう」  とにかく翌日はトレンデの山が吹き飛んだ話題で街が騒めいていた、何と言っても山が吹き飛んだのだ。山だよ山、今回は何もそれ以外は被害は無さそうだけど、滅多に見られるものじゃないからやじ馬も結構いるそうだ。吹っ飛んだ山を見に行く観光客もいるらしかった。 「おはようございます、カイト、サシュ」 「おおっ、おはよう、カタラータ」 「おはようなのです、カタラータさん」  そうして和やかに朝飯を食べると今度は真剣な顔でカタラータが言った、その顔に朝食べたバーガーのソース実は付いてた。 「さて、私をラーゼン王国に送っていくことはご検討いただけましたか?」  正直にいえばすっかり棚に上げていて考えていなかった、だが護衛依頼となると話が違ってくる、俺はカタラータに簡単にはっきりと分かりやすく聞いた。 「護衛賃はいくらだ?」

ともだちにシェアしよう!