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第1話 出会い

 それは夜ラジオから流れて来たバラード。  その歌は『U』という歌手が作詞作曲したデビュー曲で、男性だと言うこと以外全てが未公表でメディアにも一切顔出ししないという。  僕は彼の低く甘い声と、切ない恋の詩と曲調に一度で魅了された。  ***  九月一日、僕の在籍するN高校一年三組に転入生がやって来た。  担任の教師に連れられてやって来た転入生を見て、女子生徒は色めき立ち、男子生徒は白けたムードになる。  何故なら転入生の男子生徒はめちゃくちゃイケメンだったからだ。スタイルもいい。  黒板に書かれた名前は『花園光』、先生がその名前の横に小さくふりがなを打ち、 「今日からこのクラスの一員になる『はなぞのひかり』くんだ。みんな仲良くするように」  僕は一番後ろの席で美貌の彼を見ながら思う。  名前までも光り輝いてるや。  神様ってほんと不公平だよな……僕みたいに地味なやつもいるっていうのに。 「花園光です、よろしく」  おまけにイケボ。  ここまで何もかも完璧だと嫉妬する気にもなれない。  これが僕、上町(うえまち)のぼると光との出会いだった……席が近くになったわけじゃなし、光が目立たない僕のことを気に留めたとも思えないから、『出会い』と言えるかどうかは怪しいが。  そして本当の出会いはこの日の放課後に訪れるのだ。  放課後、僕が書き終えた学級日誌を持って足早に職員室へと向かっていると、途中にある音楽室からピアノの音とともに『U』の歌声が聞こえて来た。  もしかして僕とおんなじUのファン?  Uはまだデビューしたばっかりでマイナーだ。そんな彼に僕と同じように魅了されファンになってる人がいて、歌をかけているのだろうか。  僕はなんだか同士ができたような気がして、嬉しくて、音楽室の扉を少しだけ開けて中を覗き込んだ。 「えっ!?」  思わず声が漏れる。  その途端にピアノの音と歌声がぴたりと止む。  ピアノを弾き、Uのバラードを歌っていたのは、今日転校して来たばかりの花園光だった――。  細く開けた扉越しに目が合うと、光はつかつかとこちらに歩いて来て大きく扉を開けた。 「参ったな。まさかこんな時間に音楽室の前を通る奴がいるとは思わなかった」  確かに今日は掃除もしたあと日誌を書いていたのでいつもより遅くなっていた。 「は、花園君? え? U? いったいこれ、どういうこと?」  僕が泡を食って訊ねると、光はジッと僕の目を見て来る。  切れ長の瞳は澄んで綺麗で、その全身から発せられるオーラと相まって僕を追い詰める。 「おまえ、悪いけど名前まで覚えてないけど同じクラスの奴だよな? Uのこと知ってくれてるんだ?」  こくこくと僕は頷く。 「……もしかして、俺のファンになってくれた、とか?」  図星を突かれて、赤面症の僕は真っ赤になった。 「へえ、サンキュ。でも俺の正体、秘密なんだよ……知ってるよね? だから誰かに……例え家族であっても話されちゃ困るんだ」 「いっ言わない! 誰にも」 「うん。でも保険かけさせてもらうよ」  そう言うが早いか光は僕の唇を自分の形のいいそれで塞いだ。ばさりと学級日誌が手から落ちる。  僕のファーストキスだった。そしてパシャリとシャッター音。光がキスの場面をスマホで撮ったのだ。

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