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第51話 おまけ3

お風呂に入ってからセックスを始めたのだけど、二人汗まみれになってまたお風呂に入る羽目になった。  僕は腰が立たなくて、光にお姫様抱っこされる形でバスルームまで運んで貰った。  男二人が入っても狭くないバスタブに泡立てたお湯を張り汗を流す。  光が僕の中を綺麗にしてくれ……そのときの指使いにまたちょっぴりエッチな気持ちになったけど、流石に体力が持たない。  二人じゃれ合うようにしてお風呂を済ませ、大きめのバスタオルで僕をくるんで光が僕を運んでくれる。  そのときだ。  僕の目が部屋の隅に置かれた雑誌の山に気づいたのは。  光は今やトップスターだから雑誌のグラビアを飾るのも珍しくないけど、そこに置かれた雑誌は僕が見たことがないものだった。  僕は気になって、 「光、あの雑誌って」 「ああ……あれ、引っ越して来る時に出て来たんだよ、昔の雑誌」 「昔の? え? でも光はずっと覆面歌手だったんでしょ?」 「ああ、うん。それより、もっと前の」  光は僕をベッドに降ろしてから隅に置かれた雑誌を一冊取って戻って来た。 「これは、俺がモデルしてたときのもの」 「モデル!?」 「そう言えばのぼるに話してなかったっけ。俺中学時代歳ごまかしてモデルのバイトしてたんだよ。金良かったしね。まあモデルのバイト料はほとんど親に取られてたけど。それでも少しずつ隠しながら家出る用意してたんだ」  光が持ってきた雑誌をペラペラめくると、真ん中辺りに大きくページを割いて光が載っている。  今より少し幼い……でもこの頃からイケメンのオーラが凄い。他に載っているモデルの誰よりも光は輝いていた。 「光がこんな雑誌に載ってたなんて、僕、全然知らなかった」 「それほどメジャーな雑誌じゃないし、それと表紙に俺を使うのはやめてくれって言ってたしね。流石に必要以上に目立ちたくなくて」  この頃の俺、すごく荒れてたっけ。  光がポツリと零す。 「うちの親父さ、のぼるも見た通りガタイがすげーいいじゃん。だから中学になっても敵わなくて虐待受け続けてたんだ」  光が髪をかき上げるその手が震えている。  僕は光を抱きしめて、 「大丈夫……もう誰も光を苛めたりしないから……大丈夫だよ、僕がいるから」  幼子をあやすようにそっと背中を撫でた。 「のぼる……」  正直、僕なんかには大したことはできない。体つきも貧弱だし。  でも、光の心に寄り添うことはできる。  光の心はいまだ傷ついたままで。  その傷が癒えるまでにはまだまだ時間がかかると思う。  強いようで、でも誰よりも弱いところがある光。  守ってあげたいと思う……こんな陰キャな僕だけど。 「サンキュ……のぼる、もう大丈夫だよ」  光が僕の額にキスを落とした。  モデルをしていたという雑誌を再び手に持ち、呟く。 「この頃の俺はすごく怯えた瞳してる。でも、このモデルをしてたおかげで今の事務所に拾って貰えたんだっけ。運命って分からないよな」 「うん……」 「運命の神様がいるなら、のぼるとの出会いをありがとうって言いたい。俺、こんなに好きな人ができるなんて夢にも思わなかったから」  光は優しい瞳で僕を見つめてくれる。  こんな僕を。 「愛してる、のぼる」 「僕も……」  光が雑誌を放り投げ、しっとりと唇が重ねられる。 「あ……だめ、光……二度目のお風呂入ったばかりなのに……」 「何度でも入ればいいじゃん」  強引に押し倒されて、首筋に唇が這う。 「ん……」  唇が乳首に辿りつき、また悪戯を繰り返す。  シーツをギュッと掴む僕の手にも光はキスをしてくれる。  光の歌がフェイドアウトするのとは逆に、徐々に大きくなっていく僕の喘ぎ声。  光はもう覆面歌手ではなくなったけど、僕しか知らない光がいる。  僕は陰キャでこのまま過ごすのだろうけど、光にしか見せない僕がいる。  そういうのを運命の相手っていうのかな?  抱かれる快感に朦朧としてくる頭で、そんなことを、思った。                                           了  

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