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プロローグ 1

 日中の温かさの残る夜風に初夏の訪れを感じながら、二次会に向かう同僚を見送った。久々の飲み会で訪れた歓楽街の煌めきの中、次の日外せない用事のある俺は一足先に帰路につくことにした。 「わ、すいません……!」  夜でも人通りのある道をふらふらと歩いていると、慌てて歩く男とぶつかった。反射的に謝罪を口にして顔を上げ、はっと息を飲んだ。  艶やかな癖のある黒髪にどこか悲しみを帯びた青い瞳。真っ白な雪のような肌。180cm以上はありそうな体躯に、グレーのトレンチコートがよく似合っていた。そして手にはワインボトルを抱えていた。  ひと目見て、好みど真ん中を行く顔に見惚れて呆ける俺をよそに、彼は足早に路地裏に入っていった。  突然の出会いに衝撃を受けて立ち尽くしていると、後方から慌ただしく足音が迫ってきた。 「そのまま追いかけろ、行けっ」  そんな声がしたかと思うと4、5人の黒尽くめの男たちが、先程の男を追いかけるようにして早足で駆けていった。日本語を話してはいたが日本人ではないようで、異様に白い肌に殺気立った目をしていた。  直感的になにかまずいことが起きているんだと感じ、居ても経ってもいられず俺もその後に続いた。  路地裏を覗いた時には既に、黒髪の男は羽交い締めにされ殴られていた。  なにやら問いただす声がして、腹部に一発。怒鳴りつけて顔面に続けざまにニ発。  あまりに非日常な光景に足がすくみ、しばらく何もできなかった。  ただの酔っ払いの喧嘩には見えなかった。 「はっきり答えろっ」  怒鳴り声と同時に突き飛ばされた彼の体が壁に打ち付けられる。  鈍い音を立てて、ずるずると黒髪の男は座り込んだ。手に持っていたワインボトルがからんと音をたてて地面に転がった。 「や、やめろ!」  無抵抗な彼に続け様に蹴りが入り、とうとう見ていられなくなった俺は、なんとか声を振り絞りながら、取り囲む黒尽くめの男たちの間に割って入った。  体が勝手に動いていた。  ばくばくと鼓動が早くなる。  もうどうにでもなれと睨みつけながら、黒髪の男を庇うように腕を広げる。  いざ正面からギラつく瞳に見据えられると、酔いなんて一瞬で冷めてしまい、背筋に嫌な汗をかいた。 「あぁん? 誰だお前」  ドスの効いた声に心臓が苦しいくらいに脈打ち、必死にこの場を掻い潜る方法を考えた。 「人間風情が邪魔すんじゃねぇ!」  苛立ちを隠さず、黒尽くめの男は殴りかかってくる。  その右ストレートを避け、視界に入った地面に転がるワインボトルを拾うと、彼に向かって放り投げた。  ガシャンとガラスの割れる音が響き、それと同時に血の生臭い匂いが広がった。  何を言っているのか自分でもわからないが、ガラスで傷ついた程度では流れない量の血があたりに飛び散っていた。それはおそらくボトルにもともと入っていたものだ。 「立って!」  困惑しつつも、一瞬怯んだ隙をついてトレンチコートの男を立たせると、腕を引いて路地裏を出た。  振り返ると男たちが追ってくる様子は無い。ほっとしつつも怪我を負った彼に肩を貸し、駅まで急いで向かった。

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