6 / 29

6

「え?」  彼の口から放たれた言葉に驚きを隠せなかった。  快楽でおかしく……? 「嫌なら、はっきり言ってくれ……俺は、これくらいで死にはしない」  エヴァンはそう言いつつも、苦しそうにしていて、先程よりも激しい息遣いを感じた。  さっきの一言で戸惑う気持ちはあったけれど、腕の中で苦しそうにする姿がいたたまれず、断ることなんてできなかった。  恐怖と興奮で心臓の音がうるさく鳴った。 「い、嫌じゃないよ……エヴァンならいいから、お願い……我慢せずに俺の血を、っ!!」  その言葉を待っていたと言わんばかりに、首筋に牙を立てられる。ふつりと皮膚が裂ける感覚がして、針が刺さるような小さな痛みと同時に一気に快感が体を貫いた。  なに……これ……?  頭がぼんやりとして、彼の唇が触れている部分が熱を持つ。 「っあ……あぁっ!?」   牙を抜かれ、裂けた皮膚から血液を吸い上げられる感覚に堪らなく感じてしまって、ガクガクと体が震えた。  強烈な快楽に身体は痺れたように力が入らなくなり、そのまま倒れるようにして床に身を預けた。そんな俺と密着したまま、エヴァンは馬乗りになり俺の肩口に顔を埋めていた。  強く吸い上げられてじんと全身に熱が広がる。  荒い息遣いと時々漏れる色っぽいうめき声にも感情は高ぶって、いつしか触れていないのに確かに、ズボンの中で形を持ち始めていた。 「はぁ、は……あぁっ……っ」  自分のじゃないみたいな甘い声が漏れてしまう。ただ首元を舐められているだけなのに……。 「すまない、やはり加減が効かなかったか……」  エヴァンの低い声が鼓膜を揺らす。かかる熱い吐息に身悶えしてしまう。  意識が朦朧とする中で、上に乗るエヴァンに無意識に腰を擦り付けていた。  滴る熱い血液を舌で舐め上げられ、ちゅっと音をたてて唇が離れる。その一つ一つの動きに、身体は高揚し、くらくらとするくらい快楽だけが支配していた。 「触れてもいいか?」  耳元でそんな風に囁かれ、ぞくぞくと背筋が震えた。  やばい、やばい……触られちゃったら、どうなっちゃうんだ……。  感じたことのない、激しい興奮に少しの畏怖を覚えながら、それでも身体は素直で、何度も首を縦に振っていた。 「さわ、て……んぁ! あっ、ああぁ――っ!?」  肌を吸い上げられるだけでも今まで経験した中で一番感じていたのに、布越しとはいえ敏感なところに触れられると比べ物にならないくらいの強烈な刺激に、何も考えられないまま欲望を吐き出していた。  普段ならこんな早いわけないのに、あっという間に果ててしまい羞恥で顔が熱くなる。 「辛いか……?」  吐精の余韻に、脳を溶かすような快感にぼんやりしていると、美しい瞳が滲む視界に映り込んだ。  昨日までとは別人のようだ。  獲物を捉えて離すまいとする、獣のような鋭く光る瞳。情欲に燃える熱い視線。  次の瞬間には唇が触れ合っていて、その些細な刺激にも興奮を覚えて身体が熱くなる。舌が触れ合い絡み合うと、唾液に混じって血の味がして……。俺の血を飲んだのだと思うと痛いくらいの高揚感に胸が支配された。  深く口付けを交わしながら、エヴァンにスウェットを下着ごとずらされて、一度出しただけでは満たされない反り返ったものが露わになった。 「あぁ、エヴァ……、んうぅ……っ!」  エヴァンの大きな骨ばった手に包みこまれ、喘ぎ声が否応なく溢れた。  口蓋をなぞられ舌を吸い上げられ、一方で自身を擦り上げられると、意識は朦朧とし始めた。  もう何も考えられない頭のなかは、きもちいいのとエヴァンのことだけでいっぱいだった。 「あ、ぁっ……ふ、んんぅ……はぁ、ン!」  お互いを求め合うような口づけにじんと身体の奥が疼く。  エヴァンの手に直接的な刺激を与えられると感じたことのない強い快感に支配された。  我慢などしている余裕がないくらいに、すぐにまた限界まで昇りつめ彼の手の中に白濁した液体が飛び散る。  脳みそまで揺らすように全身が享楽に包まれた。  甘ったるく、ついばむようにキスされて唇が離れていく。  熱い吐息が混じって、涙と口の端から漏れる唾液でどろどろになって、汗ばんだ身体で荒く息をつく。  言いしれぬ多幸感に包まれる。  これまでの人生で一度も感じたことのないような、深く満たされる感覚がすこし怖かった。  彼の長い黒髪が頬に触れ、首筋にまた吸い付かれる。  血管がどくんどくんと脈打つのがわかる。  エヴァンの指先が俺のに触れて、そこがまだ張り詰めているのに気付く。 「エヴァ……あっ、ひぁ……も、もうむりぃ!」  握り込まれると再び襲う強い快感にびくびくと身体が震えた。  流石にこれ以上は耐えられそうもなくて、刺激から逃れようと身体を揺さぶる。 「レオ……」  耳元であの低い声で名前を呼ばれて、かっと身体が熱くなった。  群青の瞳に見下されて心臓が跳ねた。  先程の獣のような色はなく、ただまっすぐと見つめられて、それでも逃さまいとするような静かな熱に絆されそうだった。  エヴァンはまた痛いくらいに張り詰めた昂ぶりを優しく包み込むと、根本から先端までゆっくりとなで上げた。 「ふ、んぅ……っ、ぁぁっ!」  声が漏れる。  嫌に優しく撫で下ろされると、じれったくて腰が動いてしまう。  もう辛いのにそれでもイきたくて、彼の手に触れられていたくて……。  自分でもワケがわかんないくらいに乱れているのに、それすらどうでも良くて。 「エヴァ、ン……あっ」  ぎゅっと彼の服を握りしめて縋り付く。  休む間もなく襲う快楽に頭がおかしくなりそうだった。  体液で濡れた音が響き渡り、また否応なく熱が上り詰める。  エヴァンが手の動きを早めると、壊れたように嬌声が漏れた。 「あぁっ、いく、も……、イくぅ……っ!!」  びくびくと身体を震わせ、精液が溢れ出した。  浅い呼吸を繰り替えす唇に軽くキスを落とされ、身体も心も満たされていく。  鈍く残る甘い痺れに、自分の思慮のたらなさに、若干の後悔を覚えながらそのまま意識が途切れ落ちた。

ともだちにシェアしよう!