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 残されたヴィンセントは暗い表情で顔を伏せていた。 「大丈夫ですか? こんなことになるなんて……」  きっとわかりあって二人が結ばれると、そう考えていた。だからこうしてクラウディオを呼んで話をするように勧めたのだ。  それなのに彼には、今、支えてくれる人もいたなんて。 「気にしないで、君のおかげで深く話せた。……彼に恋人が居ることはわかっていたし……」  ヴィンセントは自嘲気味に笑い、ぼそぼそと続けた。 「なんでもっと早く話せなかったのか。いや、こうなる運命だったんだ……」  髪の毛をくしゃりと掻き上げて深くため息を付く。  俯いて後悔を滲ませるヴィンセントにどんな言葉を掛けたら良いのかわからない。 「もう無理なのか……いや、だったらせめて」  ヴィンセントは、ぼそぼそと言葉を漏らし、意を決したように立ち上がる。  そして、思いつめた表情で外に飛び出していった。  慌てて彼を追いかけ玄関に向かうと、開いた扉の向こうで車に乗ろうとするクラウディオと久良岐が見えた。 「クラウディオ!」  ヴィンセントの声が響き、名前を呼ばれたクラウディオがぱっと振り向く。  そのまま彼に駆け寄ったヴィンセントは、クラウディオを久良岐から引き離し、力強く抱き寄せた。 「愛してる……君だけを愛してる」  真剣なヴィンセントの声に、こちらまで胸が締め付けられた。 「隣にいてほしい、永遠に……君のことを誰よりも愛してる」  ぎゅっと手を握り、胸の中のクラウディオを見つめながらヴィンセントは愛を伝える。 「ヴィンセント」  その唇を塞ぐようにクラウディオがキスをした。  ゆっくりと唇が離れ、しばし見つめ合う二人の間には、ずっと燻っていた様々な想いがこもっているようだった。 「私も愛してるよ……だから」  泣き腫らして目元を赤くしながらも、なお美しいクラウディオが頬を緩めた。そして次の瞬間には眉間にしわを寄せて、そっとヴィンセントから身を離す。 「だから、さようなら」  涙ぐんで上擦った声が痛々しい。ヴィンセントももう引き止めることはなく、クラウディオが車の助手席に乗り込んだ。  久良岐が扉を閉め、運転席に乗り込む。  エンジンが掛かり車は門を出ていった。  車の音が遠くなり、静寂が訪れる。  夏の夜は昼間の暑さを残し、夜空に輝く月はどこか寂しげに輝いていた。  取り残されたヴィンセントは、心配になるくらいに憔悴し、ふらふらと家を後にしていった。  夜の静寂の中で、やるせない気持ちだけが残った。  俺は二人に申し訳なくて、気分が沈んでしまいソファに腰掛けたまましばらくじっとしていた。  隣に腰掛けていたエヴァンもなにか考え込むようにしていた。 「ねぇ、エヴァン……」  モヤモヤとした気持ちに耐えられず声をかける。 「クラウもヴィンセントさんも好き同士なのに、うまくいかないなんて、くやしいよ……」  彼の大きな手が伸びてきて頭を撫でられる。 「どうしたら二人また仲良くなれるんだろう? それとももう、無理なのかな」  頭を撫でていた手が頬にあてがわれ、すりすりと撫でてくる。 「またお節介か?」  すこし冗談めかしてエヴァンが言う。 「だって、ヴィンセントさんもクラウもふたりともすごく辛そうだったし……せっかく再会したのに」 「だからって、お前まで泣きそうになること無いのに」  頬を撫でていた手が首にまわり優しく引き寄せられ、そのままエヴァンの胸に体を寄せた。  エヴァンの腕の中は、そんなわけないのに温もりを感じて、気分を落ち着かせてくれた。 「ふふ、あったかい。エヴァンといると安心する……」 「そうか?」  エヴァンの低い声が響き、その振動さえも心地良い。 「俺もお前といると落ち着く」  頭にキスされて、じんわりとあたたかい気持ちが広がっていく。  消せない寂しさやもどかしさを抱えたまま、エヴァンとしばらくの間、寄り添っていた。

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