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戻せない時間【10】

「食べさせてやろうか」 負けず嫌いな彼はむきになり力を込め袋を左右に引く。 「あぁ、駄目だよ。そんな力任せに引っ張ったらさ」 「あっ」 「ほらね」 クリームを挟んだスフレは、裂けたビニール袋から勢いよく飛び出し硬い地面の上で潰れる。 「っ……くく……」 「人の不幸を笑う人間ほど貧しい人間は居ないぞ」 「耳が痛い。いやいや、君が予想外に可愛い……いや、面白いから驚いただけさ。ごめん。サンドイッチ食べる?お腹すいてるだろ?」 野良猫に餌をやる気分で、キュウリと照り焼きチキンのサンドイッチを袋から取り出し彼に差し出す。 彼が何も食べれないと言うのに、その隣で一人だけ食べるわけにはいかない。 「食べなよ」 「結構」 「おいおい。何だいその言い方」 正直期待していないが、もっと別の言い方が有るだろう。 彼は海輝に興味を無くしたかのように、視線を外し未練がましくスフレを見つめている。 甘ったるいスフレなんか大嫌いなくせに。 錦の機嫌が下降するのに反し、海輝の機嫌は上昇する。 「開け方が分からない?『ここを矢印の方向へ引っ張って下さい』って書いてるよ」 「もしかして、馬鹿にしているのか」 「もしかしてじゃないよ。ストレートに馬鹿にしてるのさ」

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