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戻せない時間【11】

小さなアリがスフレによじ登り、ちょろちょろと這うのを見つめる横顔をみて僕は溜息を漏らした。パッケージを開き、左右に割れたフィルムから顔を出したサンドイッチを錦に差し出すが彼はそっぽを向いてしまう。 「食べなよ」 「お前が食え」 「食べろ」 「嫌だ」 押し付け合いに近いやり取りにサンドイッチが二人の間で二つに割れて、挟まっていたチキンが落ちてしまった。 「あ」 「わざと?」 「っ違う」 「大人気ないなぁ」 さんざん子ども扱いした癖に同じ口で遠まわしに彼を責める。 流石の錦も申し訳無い事をしたと思ってるらしい。 気まずい沈黙が訪れるが、海輝は正直ラッキーだと思ってる。 付け込むチャンスが出来たからだ。

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