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手を伸ばす【1】
「何か買ってくる。何が良い?」
「良いよ。僕も強引だったし」
「そうだな。お前が強引なのが悪い」
「おい」
「でも、足りないだろ」
何も口にしていない奴が言う台詞かな。腕時計を見る。食堂は未だ混雑しているだろうが、一般の喫茶店ならどうだろうか。
例えば、校内ではない近所の喫茶店だ。脳裏に浮かぶのは最近通いだしたお気に入りの喫茶店。グラスシェードから漏れる、柔らかな照明と気だるげなジャズピアノ。隠れ家的な場所にひっそりとある、コーヒーとパイと自家製ミートソースが絶品の店だ。一人で通うお気に入りの空間。
「まだ、何かあれば良いが……少し待っててくれ」
この台詞を聞いて、今日の僕はついている。とほくそ笑む。
喫茶店に誘う口実が出来た。
立ちあがり足を踏み出した彼の腕をつかむ。
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