83 / 83
第83話
パタン……
自室に入り、ため息と共にベッドに倒れ込む。
「……」
もしかしたら、これでよかったのかもしれない。
本当はどうしたら良かったのか、考えた所でベストな選択肢などみつかりそうにない。
辻田を追い掛けたとして、事を荒立ててしまったら。裸で眠るアゲハを揺り起こして、僕に見られた事に深く傷ついてしまったとしたら。
……これで、良かったんだ。
そんな解釈すら、身勝手で後ろ向きな考えなのかもしれないけど。
「……」
きっと清井なら、上手くやれたんだろう。
盗まれた体操着。待ち伏せたジャーナリスト。盗撮。棚村先生の件など。
これまで降りかかってきた嫌な出来事に対し、無条件で手を差し伸べてくれた清井の顔が次々と浮かぶ。
もし、清井が弟だったなら──アゲハは今よりも幸せだったのかもしれない。
僕のせいでホストにならずに済んだだろうし、若葉に付け入られる事もなかった。
そんな考えに行き着き、鋭利なもので心を抉られたような痛みが走る。
……本当に僕は、駄目な人間だ。
助けられたり、守られてばかりで。一人じゃ何にもできない。
誰かに利用され、身代わりの道具として傷つけられている方がまだマシだった。
ただ、耐えていればよかったのだから。
平穏な日常を送ろうとする事が、こんなに辛いなんて思わなかった。
「……」
向けられた親切を、悪意の裏返しだと疑って。警戒ばかりして。
憎んでいた筈の行動を、自らが犯していて。
こんな人間が、この世界に生きている人達と平等でいい筈がない。
……苦しい。
いっそ、消えてしまいたい。
僕という魂を消して、永遠にこの世に存在しなければいいのに……
『……なら、さっさと代わってよ』
ドクンッ──
心臓に刃物を当てられたような、底冷えのする感覚。
心の奥底を揺さぶる、悪意のある声。
『僕なら上手く、立ち回ってあげるからさぁ……』
背後から迫り来る、誘惑の声。
ドクドクと胸を打ち響く、不協和音。
息が止まり、身動きできないままでいれば──数多に生えてくる黒い手に足を掴まれ、底の方へと引き摺り込まれていくような感覚に襲われる。
やだ。
冷えた脳裏を過ったのは──竜一。
竜一との思い出も、未来も……全てを失いたくはない。
いやだ。
この身体は僕のものだ。
竜一が愛してくれたこの身体を、誰にも乗っ取らせはしない。
誰にも──
ともだちにシェアしよう!

