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第83話

パタン…… 自室に入り、ため息と共にベッドに倒れ込む。 「……」 もしかしたら、これでよかったのかもしれない。 本当はどうしたら良かったのか、考えた所でベストな選択肢などみつかりそうにない。 辻田を追い掛けたとして、事を荒立ててしまったら。裸で眠るアゲハを揺り起こして、僕に見られた事に深く傷ついてしまったとしたら。 ……これで、良かったんだ。 そんな解釈すら、身勝手で後ろ向きな考えなのかもしれないけど。 「……」 きっと清井なら、上手くやれたんだろう。 盗まれた体操着。待ち伏せたジャーナリスト。盗撮。棚村先生の件など。 これまで降りかかってきた嫌な出来事に対し、無条件で手を差し伸べてくれた清井の顔が次々と浮かぶ。 もし、清井が弟だったなら──アゲハは今よりも幸せだったのかもしれない。 僕のせいでホストにならずに済んだだろうし、若葉に付け入られる事もなかった。 そんな考えに行き着き、鋭利なもので心を抉られたような痛みが走る。 ……本当に僕は、駄目な人間だ。 助けられたり、守られてばかりで。一人じゃ何にもできない。 誰かに利用され、身代わりの道具として傷つけられている方がまだマシだった。 ただ、耐えていればよかったのだから。 平穏な日常を送ろうとする事が、こんなに辛いなんて思わなかった。 「……」 向けられた親切を、悪意の裏返しだと疑って。警戒ばかりして。 憎んでいた筈の行動を、自らが犯していて。 こんな人間が、この世界に生きている人達と平等でいい筈がない。 ……苦しい。 いっそ、消えてしまいたい。 僕という魂を消して、永遠にこの世に存在しなければいいのに…… 『……なら、さっさと代わってよ』 ドクンッ── 心臓に刃物を当てられたような、底冷えのする感覚。 心の奥底を揺さぶる、悪意のある声。 『僕なら上手く、立ち回ってあげるからさぁ……』 背後から迫り来る、誘惑の声。 ドクドクと胸を打ち響く、不協和音。 息が止まり、身動きできないままでいれば──数多に生えてくる黒い手に足を掴まれ、底の方へと引き摺り込まれていくような感覚に襲われる。 やだ。 冷えた脳裏を過ったのは──竜一。 竜一との思い出も、未来も……全てを失いたくはない。 いやだ。 この身体は僕のものだ。 竜一が愛してくれたこの身体を、誰にも乗っ取らせはしない。 誰にも──

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