1 / 11

第1話

いつからだろう…… アゲハと一緒に住むようになったのは。 いつからだろう。 アゲハの首元にある手術跡に、鋭く光る金属片が時折見えるようになったのは…… ぼんやりする頭で考えてみるけれど、上手く思考が働かなくて。睫毛を下げ、ゆっくりと持ち上げた頃にはもう……酷い眠気の波に襲われていて。 重力に従って、重い瞼を閉じる事しかできなくなっていた。 ××× 「そのままでいいよ」 食事が終わり空になった食器を重ねていると、優しく微笑むアゲハが椅子から立ち上がる。 カチャ、カチャン…… 纏めた僕の食器を自分のと重ね、シンクへと運んでいく。 「……ありがと」 その背中に向かって言葉を投げ掛けるけど、思いの外小さくて。小さく咳払いをし、喉元に手を添える。 普段余り喋らないせいか、自分が思ってる以上の声量が出ない。耳の中で反響する声は大きいんだけど……多分、アゲハには届いていなかったかも。 「……」 でも、もう一度口にするのは……恥ずかしい。 テーブル端に置かれた処方薬。 入院中から飲んでいたこの薬は、口に含んだだけで苦い。良薬口に苦しとはよく言うけど、本当に効いているんだろうか。 ただ眠気を誘発し、思考能力を麻痺させることだけが目的なのだとしたら、狙い通りなのかもしれないけど。 五種類の錠剤を袋から取り出し、白湯でひとつずつ飲み下す。喉に引っ掛かる感覚と滲み広がる苦みに、未だに慣れる気などしない。 いつからか増えてしまった吐き気止めを一緒に服用した所で、後に残る気持ち悪さまで抑えられそうになかった。 カチャ、カシャン…… 遠くから聞こえる、洗い物をする水の音。 料理も洗濯も、アゲハが全部引き受けてくれる。 僕は、何にもしていない。 やって貰うばかりで……何の役にも立てていない。 いくら兄弟とはいえ、このまま甘えっぱなしでいい筈なんかないのに。 カタン、 椅子から立ち上がり、キッチンへと向かう。 胃に食べ物を入れたせいで重くなった内臓が、下の臓器を圧迫してるような不快感が襲う。 「……お兄ちゃん」 お腹を抑えながら話し掛ければ、洗い物を続けるアゲハが「ん?」と返事をする。 「僕にも、手伝わせて」 小さく口を動かしてそう言えば、アゲハの動きが突然止まる。 ザァ──……

ともだちにシェアしよう!