1 / 15

第1話

ザッザッザッと歩みを進める度に足元から土の擦れる音がする。 暑い。止めどなく流れる汗は玉になって落ち、シャツが背中に貼り付いて気持ち悪い。 蝉の鳴き声も耳に付き、それが更に暑さを増幅させた。 でもこの丘の上には古い小屋のようなものが建っていて、そこから見える景色が素晴らしいという。 幽霊が出るとかって噂があったりして気持ち悪がってみんな近付かないようだけど、その景色を見てみたいし、絵に描きたいと思っていた。 暫く登っていると丘の上には本当に小さな四角い小屋が建っていて、まるで空と海が繋がっているかのような壮大な景色が広がっていた。 その景色を眺めていると、小屋の方から物音がする。 まさか本当に幽霊? なんて思って振り返れば、屋根の上に誰かが座っていた。 「そこで何してるんですか?」 声を掛けるとその人は少しだけ怪訝そうにしたが、立てかけてあった梯子を下りてくる。 「お前こそ何してんの?」 下りてきたのは男にも関わらず見惚れてしまう程に綺麗な人で、通った鼻筋にアーモンド型の瞳、サラサラとした髪は太陽に透けてほんのり茶色く輝いていた。 「僕はここの景色を絵に描こうと思って」 「ふーん。じゃあ俺と一緒か」 「絵、描いてるんですか?」 「描いてるよ」 「見せてください!」 詰め寄る僕に後退りすると、その男はクスクスと笑う。 「自己紹介とかしてくんない? 呼び方とか困るから」 言われてみて、初対面にも関わらず図々しかった事に思わず赤面しながら頭を下げた。 「すみません。僕、風間(かざま) 夏樹(なつき)です」 「俺は、あおみ はるか」 「どんな字書くんですか?」 珍しい名前だから気になって聞くと、彼はまた肩を震わせて笑った。 「紺碧の碧に、あの海」 そう言って海を指差す。 「あと、遥か彼方の遥で、碧海(あおみ) (はるか)」 「綺麗な名前ですね」 「そうか? 女みたいじゃない?」 「いや、すごく合ってます。碧海さん綺麗だし」 「遥でいいよ。変な奴」 「は、はい。遥……さん」 これが、僕と遥の出会いだった。

ともだちにシェアしよう!