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最終話
──遥が消えて、7年の月日が経とうとしていた。
僕は母校の美術教師となって赴任し、今年から美術部の顧問をしている。
今日の業務も追えて帰ろうと席を立った時、隣の社会科教師が僕に話しかけてきた。
「風間先生ってうちの学校の卒業生でしたよね」
「そうですけど」
「さっき教頭が言ってたんですけど、当校の卒業生が海外で有名な絵画のコンクールで賞を取って帰国したとかで学校に取材依頼があったみたいですよ」
「絵画のコンクール?」
「これ、新聞もらったんですけど。なんか植物状態から奇跡の復活を遂げたとか。壮絶なリハビリとかも書いてあって……」
目の前に出された新聞には、受賞した作品が載っていた。
新聞の印刷は荒かったが、それは間違いなく遥の絵だった。
✳︎✳︎✳︎
僕は学校を出ると、居てもたっても居られなくなり駆け出していた。
いるとは限らないのに、ひたすら坂を上り遥のアトリエへ向かう。
「遥さん!」
扉を開けると遥はあの時のように窓際にいて、僕の事を見ると微笑んだ。
「ただいま。夏樹」
その言葉に胸が熱くなって思わず駆け寄り強く抱き締める。
「く、苦しいって。つか夏樹、背伸びてる。俺と殆ど変わんなかったのに、10センチ以上伸びた?」
クスクス笑いながら僕の背中に手を回すと、遥が顔を上げた。
「遥さん。本物だ。……あったかい。生きてる」
「……うん。もう一度、生きようって思ったから」
すると遥がスケッチブックを僕に手渡した。
中をみると高校時代の僕がたくさん描かれていて、それだけで胸が熱くなる。
そして、遥は僕に抱きつくと少し背伸びしながら耳元に声を響かせた。
『ありがとう、夏樹。好きだよ…───』
やっと聞けたその言葉が嬉しくてつい強く抱き締めすぎると苦しいって怒られたけど、幸せで僕は泣きそうになってしまったんだ。
「僕もすきです」
あの夏、僕は一生分の恋をした。
この想いはこれからも変わらない。
終
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