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第1話

水瀬真(みなせまこと)はコンビニの自動ドアが閉まるとすぐに足を止めた。 本格的な寒さをヒシヒシと感じる二月の寒空の下、ニヤケ顔でいた真はヒュッと冷たい風に頬を撫でられて身震いする。 「寒ッ…」 例えこの震えが風邪のひき始めだとしても…今この瞬間は気分が高揚しているからそんなの気にならないし、気力で治せそうだ。 そろそろ終電という時間、真はコートの襟を立て駅の灯りとは反対側の住宅地に向かって歩きだした。 現在真は一人暮らしだ。 ちなみに大学を卒業してから測定機器を開発売する会社で三年間事務仕事を担っている。 勤め先の最寄り駅から乗り換え無しで六駅、さらに駅からマンションまでは徒歩で十分、都心から程よい距離感にある築二十年のマンションに彼の住む部屋があった。 職種が事務系のため月〜金曜日までは毎日会社に通っているが土曜日と日曜日の休日は家で本を読んだり音楽を聴いたりサブスクで映画を観たりと外出したりせずに静かに家で過ごしている。 外出にはさほど興味がなく食料品から消耗品、衣類などはほぼ通販サイトに頼って生活しており、月に数回大手通販サイトから発注した荷物が届く。 荷物の受け取りは土曜か日曜の在宅している午後の時間帯を指定している。 休日の朝はゆっくりとしたいし平日夜間だと突然残業になることもあるから。 だが今回は違った。 明日は会社が休みだというのに待ちきれなかった真は残業で帰りが遅くなるのが分かっていながら最寄り駅近くのコンビニで荷物を受けれるように手配した。 さっきコンビニに寄ったのはそのためだ。 わざわざ夜中に受け取ったのだ…風邪になんか罹っていられない。 「やっと届いた嬉しさと、初めて使う緊張感のせいかな」 真はそう呟いた。 ウキウキが加速した結果、ほぼ人通りの無くなった夜の住宅街を競歩選手のような早さでシャキシャキと歩き、運良く待機していたマンションのエレベーターに飛び乗った。 そして玄関に入るやいなや靴を放りだし冷え込んだ室内に大股で勢いよく駆け込んでいく。 通勤カバンをベッドの脇に投げ大事に抱えていた小包を小さなテーブルの上にそっと置いた。 そしてマフラーを解き着替えをする時間も勿体ないとばかりにスーツ姿のまま行儀よく脚を折り畳み、テーブルの上に置いたダンボール箱に向かって真はそれに施された封を丁寧に剥がしていった。 「どれどれ」 前のめりで中を覗き込む顔がいつもより血色良く見えるのは息が切れるほどの早歩きで帰ってきたからだけじゃない。 ウキウキとワクワクが入り交じったまるで遠足前の子供と同じ。 ガムテープを剥がしダンボールの端を捲ると空気を含ませるように丸められた紙の中に待ち望んでいたそれがあった。 「わわ、結構なサイズ感!」 初めて見た実物に真は誰に語りかけるでもないのに大きな声がでた。 ピンク色の緩衝材の中に埋もれていたそれはしなやかなラインを持った黒いシリコン製の物体。 ビニール袋に入ったままのそれを指先で持ち上げ目の前でじっと見つめるその瞳は仕事をしている時よりも真剣に見える。 「こ…こんな大きさのモノを…俺の…に…」 若干震える真の声にはある種の決意が含まれていた。

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