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第2話
真は二十五歳で身長は百七十二センチ、筋肉隆々でもガリガリでもない中肉中背、一度も染めたこともない黒髪は美容院に行くのが面倒という理由で少し長めをキープしており本人が若干気にしている姉&妹とお揃いの黒目がちの瞳を隠すのにも役立っている。
そして本人の自覚は全く無いのだが顔の作りはイケメン寄りと家族と同僚からは認定済みだ。
「せっかく顔が整っているのだからいいスーツを着て合コンにでも行けばいいのに」と余計な事までも事ある毎に周囲から言われている。
だが真は今まで色恋沙汰など綺麗さっぱり縁が無く…どちらかと言えば陰キャ寄りの自覚だけはあるからそんな陽キャどもが集う場所に参加する気は欠片も無かった。
さらに真はヘテロではなく、いわゆるゲイ。
故に自分の嗜好を自覚した後は地味に真面目に生きていくしかないと本人は本気で思い込んでいる。
…しかし真だって二十五歳のいい大人だ。
本音を言えば寄り添ってくれるような同性の恋人が欲しいし、人並みにエロい事も経験したい。
だが探して付き合うという難易度や両親や友人達にゲイバレするリスクを考えるとどうしても積極的になれず結果として何も行動を起こせないままこの歳になってしまった。
つい最近まで勘の良い姉と同居していたのも原因の一つかもしれない…。
かつては数少ない男友達と遊んだりしていた真だが一方的に好意を持ってしまうのが怖いせいでいつの間にか親しかった友人達とは疎遠になってしまい…結果としていわゆる〝ぼっち〟という分類に甘んじている…。
「もうね、せめてコレだけは自給自足で何とかするしかないんだよ…」
ポツリと寂しい本音を吐いた。
本当は恋人が欲しい真だが彼の決意とは湧き上がる欲求…主にあっち方面…を誰も当てにせず一人で何とかする、という事だった。
「あ、もうこんな時間か」
未来の相棒を袋の上からひとしきり眺めた後、真は黒光りするブツをビニール袋から取り出しそっとベッド脇のテーブルの上に置いてようやくマフラーを解き始めた。
「よく金曜日に届いたよな〜ラッキー!」
土日が休みの会社で良かったと心底思いつつ真は上機嫌で立ち上がりハンガーに上着とスラックスを掛けワイシャツのボタンを外し始めた。
「まずは風呂に入って…それから…」
真は鞄の中の携帯が鳴っているのにも気が付かず、ブツブツと呟きながらリビングを出て行った。
暗くて暖かな闇に気持ちよく漂っているのに、何かに邪魔され引っ張りあげられるような感覚。
瞼を開こうと目に意識を集中すると薄らと常夜灯に照らされた部屋の中が見えた、気がした。
自分の他に誰もいない室内で曖昧な何かが動いたような…動かなかったような。
声まで聞こえるような気がするけれど内容の理解が出来るほど覚醒はしていない。
夢心地の頭の中、ベッドに入る前は何をしていたか記憶を辿ってみる。
『帰ってきてから部屋のテレビは付けなかったし…風呂って…それから…』
風呂場ではローションを頼りにあれを受け入れる準備と称してとりあえず自分の指を入れてみようとした。
過去に数回試したが上手くいった事はない…。
真はこの作業が憂鬱だった。
洗い場の床に膝立ちになって手のひらに取ったヌメりを持った液体を石鹸を纏わせるかのように指先に擦り付け恐る恐る腰を落とす。
そのまま膝頭を開き若干仰向けになりながら腰骨を前に突き出して股の間から後ろへ手を伸ばした。
「ん〜…慣れない…」
堅く閉じたそこをぬるつく指先でつついてみたがしっかりと閉じている…。
当たり前だ、ここは本来片道通行なのだ。
そう簡単に出たり入ったりしていい場所じゃない。
だが今日こそ意を決してやらなければ!
己の指さえ受け入れられない所にあんな…あんな存在感のあるものが侵入可能な訳が無い。
真はグッと奥歯を噛み締めて指先に力を込めたのだった…。
だが結果として力を込めた所で入らないものは入らない。
緊張感から身体が力んでしまったのも悪かったようでいつもより硬く閉ざしてしまった。
つまり真のそこは真の指を頑なに拒絶した。
『…やり方がヘタだったのか、それとも素質がないのか…』
後者なら絶望的だが前者ならチャレンジする意味はある。
「そうだ、風呂場だったから駄目だったのかもしれない…次はリラックス出来るベッドで…」
真はポジティブにそう考えた。
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