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鄧浩(デェン ハァオ)! ちょうど良かった。今、呼びに行こうと思っていたところだ」  (デェン)もまた、この部屋の有り様を見て驚きの表情でいたが、周に言われる前にベッドサイドに置かれた二つのグラスを採取にかかった。  それらを収納し終えて(デェン)が眉をしかめる。 「焔老板(イェン ラァオバン)、これはいったい……」 「さっき俺たちを迎えた男だ。あのクソ野郎が良からぬことをしでかしたってことだろうな。鄧浩(デェン ハァオ)、念の為シーツの体液も検査したい」 「分かりました。シーツごと持ち帰りましょう」  周は自らの上着を脱いで鐘崎を覆い、(リー)には戸江田を確保するよう伝えた。  と、ちょうどそこへ紫月と清水がやって来た。 「氷川、二階には誰もいねえ……ようだ」  当然か、紫月もまためっぽう驚いたのは言うまでもない。 「一之宮――実は……」  さすがの周も一瞬言葉に詰まってしまう。できる限り紫月に誤解を与えず、この状況を上手く説明するには言葉選びに気遣わねばならないからだ。  だが、そんな周の戸惑いをよそに、紫月はすぐさま亭主に駆け寄ると、心配する周らに向かって意外にも冷静にこうつぶやいた。 「――もしかして……嵌められたってか?」 「一之宮……」 「さっきの男か」 「おそらく――。だが安心しろ。カネは眠らされただけで、これといった被害は無えようだ」 「そっか」  紫月は愛しい男の寝顔を見て「ふう」と大きな溜め息を漏らすと同時に、ペチペチとその頬を叩いた。 「遼! おい、遼! しっかりしろって!」  だが、一向に起きる気配もない。 「こいつぁ……えれえ強いの盛られたか」  やれやれと苦笑ながらも、睡眠剤だけで済んで良かったとホッと胸を撫で下ろす。こんなに深い眠りにつかされたなら、まかり間違って刺されたりすることも考えられるからだ。 「今、(リー)があの野郎を拘束している。ヤツは宝飾店の関係者か?」 「ああ、多分。前に遼と一緒に社に行った時に見たツラだ。名前は確か――戸江田だったかな」 「見たところこの別荘にはヤツ以外見当たらねえ。社長と職人との打ち合わせだと聞いていたが――最初からそんな打ち合わせの予定は無かったのかも知れんな」  戸江田のやったことは一見陵辱行為のようなものだが、見方を変えれば猟奇的と言えなくもない。 「とにかく遼が無事で良かった……」  こんな気味の悪いことを平気でしでかす男だ。もしも自分たちが駆け付ける前に鐘崎が意識を取り戻して、戸江田という男と揉め事に発展したとする。一歩間違えば薬で朦朧としている鐘崎が()られるか、あるいは逆に鐘崎の方が過剰防衛で殺人者になる可能性も十分にあったわけだ。と、そこへ清水が険しい表情でやって来た。 「姐さん、ただいま東京の本社へ確認したところ、社長ご本人が通話に出られました。今日の打ち合わせのことはまったく知らなかったようです」 「やっぱりか――」  ということは、戸江田という男が独断で勝手に仕組んだことが明らかだ。

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