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「庚予 はあの抗争で命を落とした……。しかも信じていたはずの仲間に裏切られたのが原因だ。周ファミリーの直下だったんだ、あんただって覚えているだろうが」
「――もちろん覚えている。知らせを聞いてファミリーの者が現場に駆け付けた時、庚予 は既に息が無かったそうだな。気の毒なことだったと思っている」
「気の毒……? それだけか……!? あの時裏切った連中だって周ファミリー直下に違いはねえんだ! なのにあんたらトップは裏切り者を放置した! 庚予 とそいつらの問題だとでも言うようにな!」
「――確かに。ファミリー直下と言えども俺たちはどういう経緯で庚予 が裏切りに遭わねばならなかったのかを詳しく知らなかった。故に沙汰は当事者たちに任せることにしたのだ」
いわば周らトップの立場からすれば、庚予 が裏切られて当然のことをしていたか、あるいは正しいのは庚予 の方で裏切った者がやはり悪いのか、そればかりはあの複合ビルの利権に直接関わっていた当事者しか知り得ないことだった。いかにトップといえども詳しい経緯を知らぬまま、どちらかを処罰するという決定を下すわけにはいかなかったからだ。
「双方の言い分を聞いたところでどちらも腹の中を素直に見せるとは思えん。よって、我々は当事者同士で話し合って解決するのが妥当と判断したのだ」
周の言い分は尤もだった。今、目の前で銃を突き付けているこの男にも、それ自体は理解できているようだ。だが、頭では理解できても気持ちがついていかないのだろう。男は続けざまに周を詰ってよこした。
「あの時……あんたらファミリーのトップがきちんと仲裁に立ってくれていれば……庚予 を裏切った野郎が悪いってことを証明できたかも知れない……。なのにあんたらは俺たちの間のことは俺たちでカタをつけろと言って知らぬふりを通した。庚予 は理不尽に命を落としたばかりか、あの事件の後も裏切られる方がバカなんだと散々っぱら笑い者にされた……。その濡れ衣も拭えないまま……結局はあのビルの利権争いにも負けて辛酸を舐めることになったんだ! あんたらのせいで庚予 は……親父は……死んで尚、惨めに笑われ続ける羽目になったんだ!」
「親父――? では、お前さんは庚予 の息子か」
「そうだ! 庚予 の息子の庚兆 だ! 俺がこの十六年どんな思いで生きてきたと思う! 裏切られた親父がバカなんだと笑われ、組織は弱体化していった。それどころか殆どのヤツらが裏切った側に寝返って……今じゃ利権のおこぼれを食らって左団扇でいやがる……。なのにあんたらトップの連中は、そんなヤツらを未だファミリー直下に置いて平気な顔してやがるじゃねえか! 当時のことを調べてくれるわけでもなく、まるで弱肉強食が当たり前ってなツラで……あんな連中を野放しにして堂々とファミリーの傘を貸していやがる! トップが聞いて呆れるってもんだ!」
「――だから俺を拘束したというわけか」
「そうだ! 俺たちがこの十六年の間どんな思いで生きてきたか……思い知らせてやりかったからだ!」
突き付けた銃口を怒りに震わせながら男は怒鳴り散らした。
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