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「本当に自分たちのものはいらねえのか?」
「まあ、おめえらがいいなら構わんが」
周も鐘崎 もやれやれと微苦笑でいる。だが、確かに四人でまったり散歩がてらというこんな時間もいいものだ。銀座から列車のガード下を抜けて東京駅の丸の内口へと出れば、目の前には皇居へ続く広々とした石畳の歩道が午前の陽射しを受けてキラキラと輝いていた。先週に引き続き、小春日和の晴天も実に気持ちがいい。
郵便局には様々な種類の記念切手があって、紫月 と冰 はまるで女子の如く選ぶのに夢中だ。
「かーわいい! 紫月 さん、見てくださいこれ! 雪うさぎの図柄ですよー」
「お! ホントだ。時期的にもちょうどいいな!」
「こっちは秋冬の寺院シリーズですって。これも綺麗じゃないですか?」
「うんうん! ちょっとご年配のクライアントさんに送るには落ち着いてていいわな」
お目当てのものが決まれば、旦那二人は財布係である。窓口で精算を終える頃には、既に嫁たちの興味は次なる便箋と封筒へと移っていったようだ。
切手を選び終え、また少し運動がてら歩きで銀座まで戻る。馴染みの文具店も郵便局同様に相変わらず観光客などでごった返していたが、この喧騒もまた風物詩といえる。そんな中にあって周も鐘崎 も長身の上にガタイもいい。紫月 と冰 も長身ではあるが華奢な為、混み合う店内では二人に選ばせて、周らは端の方で邪魔にならないようにして待つことにした。
目当ての品物を選び終え、割と大量に買い込んだので便箋と封筒とはいえ、袋は案の定ずっしりと重くなった。
「遼 、それ一個俺が持つべ」
「白龍 、ひとつ貸して」
紫月 と冰 が同時に手を差し出すも、鐘崎 と周は必要ないと言ってニヒルに笑った。
「この程度、重い内には入らんさ」
「マジ? 悪ィじゃん」
「白龍 、ありがとうね」
「これが俺たちの楽しみでもあるわけだからな」
亭主らが何気なく笑むその笑顔も男前ゆえ、周囲の客たちがチラホラと視線を送ってよこす。何だか気恥ずかしくなってしまい、冰 はモジモジと頬を染め、紫月 は「へへへ」と頭を掻く。世間から見れば、自分たちはどんな関係に映るのだろうと思いつつも、
「な、な、遼 ! まさかおめえみてえなイケメンが俺の亭主だなんてさ。皆んな想像つかねえべな」
紫月 が誇らしそうに耳打ちする。
「そうか? そいつぁいかんな。じゃあちゃんと説明するか。俺たちは――」
夫婦です! ってな――などと平気で口に出しそうな鐘崎 の上着の裾を引っ張っては、
「バッ……バカバカ……! ンなこと世間様に公表することじゃねって!」
慌てふためいて出口へと向かった紫月 だった。
「ふふふ。鐘崎 さんは相変わらずだよね。どこででも堂々と「夫婦です」とか言っちゃいそう」
冰 がクスクスと笑う傍らで、周もまた自尊心をくすぐられたようだ。
「カネだけじゃねえぞ。俺だって堂々とお前の――」
亭主だと胸を張るぞ――と言い掛けた周の背中を押して、冰 もまた慌てて店を後にするのだった。
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