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 通りへ出ると、歩行者天国の車道にはパラソル付きのテーブルセットが並んでいて、観光客らがサンドウィッチやらハンバーガーなどをかじっているのが目についた。真昼の陽も大空の天心に位置し、燦々としていて、そろそろ腹の虫が鳴る時間帯だ。 「もう昼かぁ。あいつらも採寸済んだ頃だべ」  昼食は組員たちと合流して、近くのホテルで中華料理のフルコースだそうだ。こちらも周の勘定だそうだが、いくらなんでも何から何まででは申し訳ないと、コースのドリンクとこの後のお茶代は鐘崎(かねさき)が持つこととなった。  ホテルはいつもの汐留ではなく、今日は日比谷にある老舗ホテルだ。個室に案内され、いくつかの円卓に分かれての着座となった。周と鐘崎(かねさき)ら二組の夫婦に(リー)(リゥ)清水(しみず)などの幹部が同席し、組員たちは別の円卓に着く。その方が彼らにとっても気兼ねがなくて、特に若い組員などからすれば有り難いのだ。  若頭と姐さんとはいつも朝食の席で顔を合わせてはいるものの、座席の位置としてはかなり遠目といえる。間近で面と向かって食事をとるなど緊張する上に、周などといった――若い連中から見たら香港マフィアの大物と同卓ではせっかくの料理の味も分からなくなってしまいそうだからだ。  それでも同じ個室の中で若頭や周らの様子を窺えるだけで、若い衆たちにとってはすごいご褒美体験といえるものであった。 「な、俺らの採寸日、今日に当たって超ラッキーだったな!」 「だよな! (わか)と周さんの会談なんて、そうそう見られるもんじゃねえし!」  会談とは大袈裟だが、若い衆らにとっては間近で見る彼らのリラックスした姿などは確かに貴重なようだ。 「他のヤツらに羨ましがられそうだな!」 「これもクジ運の賜物だからな。こんな機会は滅多に無えもんよ。しっかり目に焼き付けとこうぜ!」  ワイのワイのと賑やかに心躍らせる中、中華のフルコースはどれも絶品で、皆は舌鼓を打ちながらの和やかな会食会となったのだった。

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