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その後、茶を楽しんだ頃にはすっかりと午後の陽射しが橙色に染まり始めていた。もうあと小一時間もすれば夕闇が降りてくるだろう。
「初冬は陽が早えからな」
そろそろ家路に着くかということになり、楽しい一日が暮れていく。
「周さん、本日は本当にありがとうございました!」
「作っていただいたスーツ、大事にいたしやす!」
若い衆たちがビシッと腰を折って礼を述べる。
「いや。こちらこそ丸一日駆り出しちまってすまない」
ご苦労だった、ありがとう――と笑顔を見せた周に、感激の面持ちで余韻に浸りながら、それぞれ帰路に着いた組員たちだった。
「じゃあ冰 君、またな!」
「氷川 、何から何まで甘えちまってすまねえ」
次は俺に奢らせてくれ――そんな意味なのだろう、鐘崎 がクイッとグラスを傾けた仕草に、
「ああ。楽しみにしておく」
周もまた、嬉しそうにうなずいたのだった。
「よし、冰 。俺たちも帰るとしよう」
「うん! 白龍、とっても楽しい一日だったよ。ありがとうね!」
空を見上げれば、たなびく真っ白な雲を染める橙が次第に色濃くなっていく。
「見ろ、冰 。お前と俺の色だ」
西の空を指さして周が微笑む。
「ホントだ! 焔 色だね!」
「これからほんの数分であの白い雲が真っ赤な焔 色に染まるぞ」
まるでお前を俺の色に染めてやるとでも言わんばかりにニヒルな笑みを見せられて、と同時に『ほら――』と腕を差し出された。
人通りも少なくなった日曜のビジネス街で、さりげなく差し出されたその腕を見た瞬間に、冰 はポッと頬を染めた。『掴まれ』という意味だからだ。
そっとその腕に手を絡めると、周は首に巻いていたマフラーを外してはごくごく自然に繋いだ手と手を隠してくれる。
「車までこうして歩こう」
耳元に囁かれた声音は、色香を伴った何とも言いようのない男前のバリトンだ。
「うん……。うん! 白龍 、大好き!」
モジモジと頬を染めてうつむきながらも、小声でつぶやかれた愛しいそのひと言に、周は長身の腰をクイと屈めて、とびきり嬉しそうに微笑んだ。
「ああ。俺もだ」
愛してるぜ。可愛い可愛い――俺の奥さん!
「う、うん……ありがと」
大好きだよ。この世の誰よりも素敵な――俺の旦那様!
白い雲と焔 色の夕陽がすっかりと混じり合う頃には蒼い夕闇が秋の夜長を連れてくる。
帰ったら――またひとつに溶け合うのも悪くないな。
そんな想いを込めてとびきり愛しげに互いを見つめ合う、雄々しいマフィアと可愛らしい花嫁だった。
後日談その2 - FIN -
※次、後日談その3です。次回は帰宅後、周らは真田と、鐘崎らは源次郎と共にお茶や熱燗でひと息入れるという、ほのぼの小話です。
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