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第1話
――どうしてこんなにもトニーを好きなんだろう。
数週間前。
それは、ケイン・ウィリアムスにとって最悪の出来事だった。
「トニー!」
叫んだときには遅かった。
消防の現場で、見る間に崩れ落ちた瓦礫にトニーの身体が埋め尽くされていく
「トニー! トニー! 無事か?! 応答してくれ! トニー!!」
ケインは半狂乱で瓦礫をかき分ける。
やがてかき分けた瓦礫の下に、トニーが姿を現した。
おそら崩れ落ちた瓦礫に頭部を叩きつけられ、トニーは脳震盪を起こしたのだろう。
ケインはトニーの頬を叩いた。
「トニー?」
呼びかけに、トニーがうっすらと目を開ける。
したたかに打ち付けたらしい額には血がにじんでいた。
「ケイン…なん……何が起きた?」
「天井が崩れ落ちてきたんだ。今から退避する。動けるか?」
「あ、ああ」
ケインは深く息をつき、眼鏡を押し上げる。
「……ゾッとした」
「え?」
ケインの思わず漏らしたつぶやきに、トニーが聞き返した。
「なんでもない……急ごう」
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