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第1話
ちゃぷ――
と、ひとつ、水音が高く弾けた。
風の渡る荻 の穂の下に、舵 をとる船頭 がいれば、魚のはねた音、もしくは、波打ち際に寄せかえった水の音と、そう思ったに違いない。
まとわりつくような夜闇の中で、うごめく獣の影があれば、それの所為ともおもわれた。
しかし夜闇であっても、今夜はたっぷりと月明かりが注いでいる。
肝心の渡し守は岸を離れた川の上で、一葉 の船をぽつりと浮かべていた。
中程にとまったまま、引き返してもこない。月見をしているわけでもなさそうである。
よくみると、船は僅かに跳ね上がり、ぎし、ぎし、と不気味な音をたてている。
船中 で絡みつく二つの人影が、水面に白い影を落としていた。
波打つと、影は上下や横に激しく揺れる。うしろから続く水の紋に乱されて、影の動きは激しさを増した。
船自体が、そういう動きをしているのだった。
船縁 に熱っぽい吐息をこぼし、青年がみだらな声をこらえているのだ。
縛られた両手で縁を掴み、崩れ落ちた身体を震わせるのは、艶をとらえた若盛りの男である。
引き締まった肉体に香露を発し、大きな感情のうねりを堪えるかのように身もだえさせていた。下腹部の熱と疼きの高まりを感じたとき、彼の貌に、匂やかな花の色が浮かぶ。
狂おしいほどのあでやかな顔を目にすれば、開放感と虚脱感を一息に味わった後でも、再び、激しい痴情に溺れたくなるものだった。
だが、船尾の男は容貌など興味がない様子で、彼の背中にどす黒くけがれた欲望を突き刺し、激しく腰を打ち付けている。
花油の瓶は夜も浅いうちに空になった。
筋を浮かべた赤黒いものが、はち切れんばかりに膨れ上がり、精を放っては忽ち隆起を繰り返すのだ。理性も痺れるほどの快感を貪ろうとするように、狭い潮路をかき乱し、油と精液でぐっしょりと濡れた彼の身体を貫き続けた。
番船 からくすねた薬が、大層いい働きをする。
一晩中、そのことだけが頭を占める。
他に、何も考えられなかった。
下半身だけでなく、肌に触れるすべての感覚が、欲情を掻き立てた。人間の矜持など捨ててしまいたいほどの、卑猥な欲望が突き動かすのだ。
その犠牲となった青年が、奥歯から悲鳴のようななまめかしい声を漏らしたとき、すでにあたりは、明るみはじめているのだった。
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