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第3話

 歯を立て、なんとか手の拘束を解くと、孔から流れ出た淫液に身体を震わせ、太ももに掌を押しつけた。  彼はただ、粘り着くような体液を懸命に拭き取っているだけなのだが、弾力のある肌に吸い付く指が、卑猥な動きをするようである。  その姿がまた、男の股間を硬くさせる。  色づいた蕾が卑猥だと、なぜ誰も気付かないのか。かたい萼からほどけた花びらの一瞬が、一体どれほどはしたないことか。  咲ききっては面白くない。冬芽が少しずつ暖まり、ほぐれてやわらかく色をのせ、心を許したその姿こそが、艶なのだ。  月丸は赤い蕾であった。今に開けようとする花である。  淫靡な情をこれほどかきたてるものはない。どれほど実直な人間だろうと、欲のない男でさえも、この魔薬のような青年に手に触れた途端、傍目も気にせず淫猥を極めるのだ。  無視を決め込む月丸の身体つきは、女のようとは余程違う。  股に入りかけた、付け根のほくろのいやらしさ。下唇の際のそのほくろが、持て余された情感に脳天を穿つのだ。  逞しいとはいかないまでも、男らしいその体つきはむしろ、月丸を買う男たちの支配欲を夜毎に掻き立てていった。健康的な身体を組み敷いて言うことを聞かせ、恥辱にたえて嬌声をもらしたときの月丸など、極上の快感をそそるのだ。  夜鷹は辻にたち、夜の蛇は潮に立つ。  彼を買うためにわざわざ岸辺に立って、ようもなく対岸へ渡らせるほど。 「こっちを向けよ」  あの澄ました顔が嫌がって涙を浮かべればよほど良い。苦痛と快感で死ぬほど喘がせてやりたくなる。  息を荒げる男に、月丸が振り返る。 「あんたの脳みそには腐った精液しか入ってないのかよ」 「船を戻せ。もう一回だ」 「いやだね」  素早く衣を纏っていく月丸に、男が立ち上がった。  刹那、拵えを抜き放つ。  鈍い銀の光を帯びた刃の先が船底を舐め、月丸に切っ先が向けられた。  刀身は小刻みに揺れている。酒のせいだ。  咄嗟に、月丸は棹を握りしめると、それを力一杯引き寄せつつ、勢いのまま男の足にたたき込んだ。蹌踉めく身体を蹴り飛ばし、大きく倒れた男の喉元に、ぐ――、と棹を食い込ませる。 「したいんなら、金をおいて夜に出直せ。昼はあんたの相手をしてる暇はないんだ」  男の腕が錆び付いていることは、数度の付き合いで知れていた。威張るために刀を腰にぶら下げていることも、主を失ってからは戦場が遠いことも。 「ふ、懐に……」  苦しげに上下する胸元をまさぐり、月丸は銭を取り上げる。  一晩の労働力に対して僅かな稼ぎであった。   <了>

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