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第20話
友を作れ。
昨晩言われたアランの言葉を、今日一日で何度思い出したことだろうか
友を作れ?馬鹿馬鹿しい
だいたいノアはアルファが嫌いだ
アルファだらけの学園で、友達など作る気にもならない
だが、しかし。
話せる仲がルイスしかいないことに、少々危機感があるのは確かである
前世では友達など普通にいたし、なんなら彼女だっていたことはある
その分やはり1人が辛いのだ
ずっと孤独なのと、急に孤独になるのは話が別だ
友達。友達ねぇ。
ノアはチラリと隣に座る生徒に目を向ける
ノアとひと席開けた所に座る、丸メガネをかけた彼は、いかにも勤勉といった風に読書をしている
彼も友達は少なく、いつも教室の隅で本を読んでいる、ノアと同類のタイプだ
読んでる本はノアも知っている内容だった
ここは一度、勇気を持って話しかけてみようか
「その本、面白いよね」
なるべく平常心を装って話しかけてみると、彼はゆっくり顔を上げ、メガネの奥の瞳をじとりとノアに向けた
威圧的なものを感じる彼の様子に少したじろぎながらも、ノアは負けじと話しかける
「別作の話は、もう読んだ?そっちも面白いけど、よければ貸そうか?」
彼に睨まれながらも、ノアは人当たりのいい笑顔を返す
しばしの沈黙の後、黙っていた彼がようやっと口を開いた
「…君、僕に気があるのかい?はあ、まったく、これだからオメガは。残念だけど僕は君に興味ないよ。でもまあ、君がどうしてもって言うなら、結婚してあげてもいいけど」
さいあくさいあくさいあく。
ずんずんと廊下を進むノアの後ろを、グレンがおろおろと付いてくる
「の、ノア様、焦らなくてもお時間はありますよ。ゆっくり歩かれた方が…」
「うるさい」
「ああ…ノア様が荒んでいらっしゃる…」
後ろから心配そうに声をかけるグレンに、ノアは冷たく言い放つ
そんなノアにショックを受けたような反応をするグレンだったが、ノアはそんな事気にしてられなかった
「怒った姿もお可愛らしい…ではなく、何かお困りな事がございますか?私が力になります」
「しつこい、黙って」
これ以上話しかけてはいけないと悟ったのか、まだ何か言いたそうにしていたが、グレンはぐっと呑み込み後ろに付いた
一方ノアの歩きは速さを増し、他の生徒を何人も追い越して行く
比較的背の小さいノアが追い越したところでなんてことないが、後ろを付く背の高いグレンにギョッとして皆後ずさっていた
なんなんだあのキモヲタ、ほんとムカつく。
せっかく僕から頑張って話しかけたのに、アルファとはああいう奴しかいないのか?だったら友達も何もない。関わりたくもない
ムカムカとした胸を抱えて向かう先は、次の授業の教室。
選択科目の芸術学科の時間だった
ノアは憂鬱な気持ちのまま目的の部屋のドアを開ける
普段はグレンがエスコートして開けてくれるが、それすらも待てないくらいイライラしていたのだ
勢いよく扉を開けたために、反対の壁に衝突して大きな音がなる
談笑をしていた生徒たちが何事か、と振り返れば、豪快な足音を立てて入ってきたノアの姿があった
扉が閉まる直前も、おろおろするグレンの姿が見えたが、ノアは無理矢理荷物を奪い取ると、勢いよく扉を閉めた
明らかに普段と違うノアの様子を見て皆が顔を顰める
常に大人しく、我関せずを徹底しているはずのノアも、今日ばかりは感情を抑えてはいられなかった
ドカドカと横暴な態度で自分の席に座ると、ポッケから小箱を取り出し、中身の錠剤を一粒、口に放り込んだ
抑制剤だ
オメガはアルファ同様、興奮すると匂いが強くなる
だが今、ノアは自力で感情を制御しきれそうにない
抑制剤は、ヒートを遅らせること以外にも、匂いの抑制や感情を落ち着かせる効果があるのだ
グレンは教室の外で待機しているはずだし、見られて困る奴はここにはいないと判断し、ノアは抑制剤を飲み込んだ
頭に血が昇ってる割には、冷静に判断している自分を誰か褒めて欲しいくらいだ
再び小箱をポッケにしまうと、ノアはわかりやすくデカいため息を吐いた
このまま今日は何もせず過ごしたい
だがもちろん、そんなノアを見過ごさない奴らがいつも通り集ってくるのだ
「あなた、オメガならもっと淑やかにしたほうが良くてよ?」
そう言ってノアを囲むのは、いつも突っかかってくる、ザ、悪役令嬢たち
おほほほ、なんて皆んなで手を揃えて、わかりやすくノアを馬鹿にする貴族令嬢たち
気が向けば何度もノアに突っかかってくるものだから、だんだんと彼女たちの反論力も上がってきていて、成長がなんとも面白いのだ
だが、どうしても今日は相手にしたくない
気が優れないノアは、もういっそのこと授業を欠席しようと立ち上がった
荷物をまとめ始めたノアを見て、何かいつもと違うものを感じたのか、彼女たちの表情が曇る
残念だけど、君たちのおもちゃは故障中だ。
今後も遊んでいきたいなら、今日くらい、ほっといてくれたっていいだろ
ノアのムスッとした表情を、彼女たちは広げた扇子の奥から見やる
その表情は目元しか見えず、とても威圧的に見える
だからノアも、彼女たちの本当の気持ちがわからなかったのだ
「…逃げますの?」
「…」
荷物を持ち、彼女たちの横を通り過ぎようとするノアを、彼女たちは横目で追う
全く応答のないノアに、いつまで構い続ける気なのか
「そんなに急いたって、部屋には誰もいませんでしょう?」
「…」
「1人は寂しくなくて?」
ノアが通り過ぎてもなお、彼女たちは扇子の奥からからかい続ける
1人が寂しいだって?
逆に君たちみたいに群れて何になると言うのか
ノアは1人でいい
1人がいいのだ
寂しくなんか
「話くらいなら、聞いてあげても良くてよ」
「…?」
その言葉に、ノアは歩む足を止め、振り返る
そこには変わらずノアを見つめる彼女たちの目があった
ノアはその時気づく
クスクスといった彼女たちの嘲笑が、そこにはもうなかったのだ
彼女たちは顔の前で煽っていた扇子を閉じており、目以外の表情もよく見えて、いつもと違う雰囲気が漂っている
彼女の鮮やかな唇がうっすら開くと、意外な言葉がでてきたのだ
「ティータイムですわ」
ノアは目の前に並べられた茶菓子と、湯気が立つ紅茶のカップを見やる
あれ、今って授業中のはずなんだけど
困惑するノアを横目に、目の前の彼女たちは当たり前のように紅茶を啜る
1人に勧められては断ることもなく、ノアもおずおずと紅茶を一口啜った
グレンが淹れた紅茶よりは劣るが、素人が淹れたとは思えないほど香りがよかった
女性は紅茶を入れるのも上手いのか?
ノアは少し感心しながら、もう一度カップに口付けた
「それで、何がありましたの?」
「何って…とくに何もないけど」
「さっきの錠剤。抑制剤でしょう?発情してるわけでもなさそうだし、何かあったんじゃなくて?」
「あったと言えば…まあ、あったけど」
なぜ彼女が途端にこのようなことをしたのかわからないが、ノアは彼女たちが面白がるような話はない
だがとりあえず、なんとなく先の嫌な思いを話してみた
「男なんてそんなものよ」
「そんなことで腹立てていたら、キリがないわ」
「忘れなさいな。考えたって時間の無駄よ」
ノアの話を聞いていた令嬢たちの1人が、そんなことを言った
そして周りの令嬢もうんうんと頷き同調し始める
だがそんな言葉をノアはまっすぐに受け止めきれず、俯き加減に言い放つ
「僕は貴方たちみたいに割り切れない。嫌なものは嫌だし、ムカつく。簡単に言わないでよ」
「おこちゃまね。対等になろうとするから良くないのよ」
「オメガは対等になるなってこと?」
ムッとした表情で言うと、令嬢が呆れ気味に言った
もちろんノアも理解している
あんなやつのことでこんなにイライラして、余計にムカつく
そして追い討ちのように令嬢が放った言葉に、さらにノアの気持ちは曇ってしまう
オメガだから。オメガのくせに。
これはノアがもっとも嫌いな言葉だった
「そうじゃないわよ」
「…え?」
「その男は頭が悪いのよ。だからあなたの意図を理解できなかったのね」
令嬢が放った言葉に、ノアは思わずほおけてしまう
そんなノアを置き去りに、他の令嬢たちもおほほほ、なんて淑やかに笑って盛り上がっている
女子って意外と、ズバズバ言うんだな、こういうこと
ノアの前では別だが、男性の前では大人しい彼女たちの姿を知っているゆえに、彼女たちがこんな事を言うなんて、衝撃だった
というか、可憐な彼女たちからそんな言葉が出てくるなんて、かなりギャップがある
なんとなく、この場の雰囲気が読めた気がする
前世でも女子たちはいくつかのグループでクラスの一箇所に集まり、談笑していた記憶がある
当時は何を話しているのか知らなかったが、おそらくこういうことなのだろう
ノアがこの茶会擬きに誘われたのは、みんなで揃って男の愚痴を言うためだ
つまりノアは、この令嬢の話題のネタにされたということだろう
だが、彼女たちはノアを馬鹿にするためにこの場を設けているわけではない
それだけは、なんとなくわかったのだ
「言うね、結構」
「言わないとやってられませんわ」
「なんか意外。女子ってもっと、かっこいい人見てキャーキャーしてるイメージだった」
「そんな古い夢、とっくの昔に捨てましてよ」
令嬢は、はあ、と深いため息を吐くと、美しい所作で紅茶を啜った
ノアも釣られて紅茶を一口飲む
それは、最初に口にした時よりも芳醇で、豊かな味が口いっぱいに広がった
「皆さん、楽しそうですね」
突然後ろから声がして、その場の全員が振り向く
そこには今来たであろう教師がノアの背後から茶会の様子を覗いていた
流石に注意されるだろうと思っていたノアだったが、意外にも教師は、近くの椅子を手繰り寄せ座ると、乙女の顔をして話し始めた
「そういう皆さんは、気になる人はいないんですか?」
教師までもがこの会話に興味深々なようで、いつの間にかちゃっかり紅茶も注いでいる
そんな教師に皆驚くこともなく、本格的に恋バナが始まってしまった
「もちろんいますわ。今年は豊作ですから」
「リアーナ嬢は、やっぱり年上が気になります?」
「ええ、精神的にも経済的にも余裕がある人が好ましいですから」
「良いですね。ジェシカ嬢は?」
「わたくしはお約束をしている方がおりますの」
「まあ、素敵」
とこのような感じで話はどんどんと盛り上がり、ノアは置いてきぼりにされる
別に混ざる気はないのだが、自分が想像していた恋バナよりずっと大人びた会話で驚いた
思春期の恋愛なんて、もっと初心で可愛らしいものだと想像していたが、ここにいる令嬢たちの会話は、とても現実的だ
印象とは全く真逆の光景に、ノアは大人しく黙っていたが、この令嬢グループの主格、派手な巻き髪の彼女、エレナ嬢がノアに向き直った
「オメガの貴方は、気になる方はいらっしゃるのかしら?」
「…僕?い、いないけど…」
「まあ、そうですわよね。貴方のお兄様があんなに美形だと、目が肥えて大変ですわ」
「…アラン兄様が…?」
突拍子もないことを言われて、ノアは紅茶を飲む手を止める
アランが美形だと?
彼女たちの勘違いじゃないのだろうか
信じられないと言いたげな表情で固まるノアを見て、エレナ嬢はさも当たり前かのように話しはじめる
「凛々しいお顔。お綺麗な所作。頭脳明晰、成績優秀。そしてなにより、ヴァロワ家次期当主!」
「…はあ」
頭脳明晰って
僕そいつにチェスで勝ったんだけど。
喉元まで上がった言葉を飲み込んで、ぐっと押し黙る
その間に令嬢たちは、大盛り上がり
やれアランが優しいだの、やれミステリアスでかっこいいだの
ようやっとノアが思い描いた恋バナに近づいたのに、これほど共感できないことはない
優しい?ミステリアス?
全部違う
アランがノアに優しかったことなんてないし、ミステリアスなのは奴の演技だ
彼はいつも威圧的でノアに小言ばかり言う
これほどうざったい存在なんて、なかなか珍しい
ご令嬢たちは残念だが、相当見る目がないようだ
「そうは思わないけど…そんなこと言うなら第二王子はどうなの?経済面では随一でしょ。今年卒業年だし、今回のパーティに参加するらしいよ」
ノアはアランで盛り上がる令嬢を止めるために、話を第二王子にすり替える
ノアはまだ第二王子を見たことがないが、王子なのだからさぞかしイケメンだろう
もちろん女性もメロメロ…と思っていたが、令嬢たちの反応はイマイチなものだった
「…第二王子様ねぇ。確かに婚約してる相手はいませんけど」
「もちろんアプローチしてる子もいますが…ことごとく躱されますから、うまくいった試しがないですわね」
「それに将来自分の子供が権力争いに巻き込まれると思うと…ねぇ?」
「お顔も性格もいいのに、王子っていうのがちょっと…」
1人がコソコソと呟くと、他の令嬢もうんうんと頷き始める
すごい、そんなに先のことまで考えてるのか
あまりにしっかりしすぎて、この子たちがまだ15、16の少女だということを忘れそうになる
あっけに取られながらも令嬢たちの話を聞いていると、授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた
「あら、すっかり話し込んでしまいましたわ。今日はこの辺にして、皆さん帰りましょうか」
そう言って慌てて教師が立ち上がる
いやいやあんたは話し込んじゃダメで
しょ
そんなツッコミも飲み込んでノアも立ち上がる
最後にノアをこの場に誘った、エレナ嬢に、ノアは不思議そうに問うた
「何故、僕をこの場に招いたのですか」
「…別に、意味なんてありませんの。おもちゃの弄り甲斐がないと、面白くありませんから」
エレナ嬢はノアを見ずに伏せ目がちに言った
その姿は最初、ノアに絡んできたザ、悪役令嬢の姿とは似つかない、とてもいじらしい反応
なんとなく、前世の言葉「ツンデレ」が頭に思い浮かんだ
彼女たちは今日、ノアの話に真摯に付き合ってくれただけでなく、ノアにいろんな話をしてくれた
ノアは思う
まず、最初から間違っていたのではないだろうか
友達といえば同性が当たり前だと思って男に話しかけたけど、ノアの今の状況、素性に近いのは、女性の方なのではないのだろうか
より理解できるのは、同じ悩みを持つ彼女たちがとても頼もしいのでは、と。
今日はとても楽しかった
先ほど感じていた不快感も、今はさっぱりなくなっている
少なくとも、彼女たちに苛立ちを抱くことは無くなった
むしろ今は、感謝すらしているかもしれない
こんなに楽しいのは、前世以来だったから
ノアは彼女たちの、友達になりたいと本気で思った
ティーセットの片付けが終わると、皆で出口に向かう
その間に彼女たちの雰囲気は乙女からいつもの、悪役令嬢っぽいものに変わってしまったが、今ではそれに不快感はない
出口の扉を開くと、いつも通りノアを迎えに来たルイスがその場に立っていた
それを見た令嬢たちは扇子を広げて顔を隠し、各々解散していく
「ノア、行こう」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
去っていく令嬢たちの背中を見て、ノアはルイスの挨拶もほどほどに、最後にエレナ嬢に駆け寄った
「エレナ嬢」
「なんですの」
「今日はありがとう。とても気が楽になったよ」
そう言うとノアはエレナ嬢の手をそっと取った
とても綺麗な女性の手。
世の誰かは苦労を知らない手だと言うだろうが、ノアは知っているのだ
この美しい手を維持するのも、なかなか大変なものなのだと
ノアは姿勢を正した状態で、お辞儀をするように腰を曲げると、取ったエレナ嬢の指先に、触れるだけのキスをした
メイドたちに教えてもらったように、紳士が淑女にするように
「よかったら、また誘ってください。エレナ先輩」
ちゅ、とリップ音を鳴らした後、ノアはゆっくりとエレナ嬢を見上げる
彼女は驚いたように目を見開いて固まっていたが、途端に慌ててパタパタと扇子を仰いだ
「ま、まあ…気が向いたら…」
ここまでしたノアに、そうそっけなく返すエレナ嬢の表情は、扇子で隠されていて見えない
でもしっかりと耳が赤く染まっていることにノアは口元に笑みを浮かべた
「では、これで」
「え、ええ…また…」
ノアの礼が済むと、エレナ嬢は急いでその場を去り、いつもの取り巻きたちの元に戻る
その集団から何かコソコソ、きゃっきゃっと聞こえたが、ノアは気にせずルイスの元へ戻った
「すみません先輩、待たせてしまって」
「いや…それより、彼女は?」
ルイスは眉を顰めて声を低くして聞いてきた
ノアは待たせてしまったことに怒っているのだと思い、もう一度謝った
「すみません、早く行きましょうか」
「ううん、それより、彼女は誰なのかって、聞いてるんだけど」
ノアの言葉にルイスは首を振る
どうやら、ノアが礼をしたエレナ嬢のことが気になるようだった
もしかしてルイス先輩、エレナ嬢のことを…!
先程まで恋バナに花を咲かせていたノアは、そんな恋愛脳に侵食されてしまったようで、咄嗟に出た理由がそれだった
それならば、教えてやろう、と、ノアは嬉しげに顔を綻ばせて言った
「友達です。お付き合いしている人は、いないそうですよ」
「………」
ついでにコソッとルイスに教えてあげたが、ルイスの眉間の皺はなぜか深まった
あれ、違っただろうか
黙るルイスの意図がわからず、おろおろとするノアだったが、ルイスは機嫌が悪そうに、ノアの腕を引いた
「行こう」
「え、あ、はい…」
引かれるがままルイスと共に歩く
その後をグレンが付いてくるのだが、ルイスはそれすらも忌々しそうに足を早めた
今日も放課後は剣術を習う予定だったが、ルイスが気分ではないと言うので、それすらなくなってしまった
ルイスはノアの腕を引いたまま、ノアを部屋まで連れて行く
部屋の前につき、普段のようにノアが挨拶しようとした時、ノアの肩をガシッとルイスに掴まれた
その行動にそばにいたグレンが反応し、警戒気味になる
そんなグレンをノアは慌てて制すと、目の前のルイスに向き直った
「ノア」
「はい、どうしましたか。ルイス先輩」
「………っ」
ルイスの行動に驚きながらも、ノアはいつものように返事する
ルイスはどこか怒っているようで、アルファの濃い匂いが鼻腔に充満する
熱くなる思考から目を背け、ルイスをしっかりと見上げた
「気分が優れませんか?」
「…ああ、そうみたいだ…」
ノアの言葉に、ルイスは弱弱しく答えると、掴んだノアの肩に頭を擦り付けてきた
いつものしっかりしたイメージのルイスが、甘えるような行動に驚きはしたが、ノアは拒絶せず受け入れた
誰だって疲れてしまう時はある
何があったのかノアはわからないが、たまにはこういうのもいいだろう
ルイスの髪の毛が、頬や首元に当たりくすぐったいが、ノアは数少ない友人を慰めるべく、ルイスの背に腕を回し、よしよしと背中を摩った
すると滲み出ていた濃いアルファの匂いが薄れていく
よかった
少しは落ち着けたみたいだ
「俺は、ノアの友達だよな?」
「もちろんです」
そう言うとルイスは満足したのか、ノアの肩から頭をあげた
見えた表情はやっぱり暗い顔をしていて、少しばかり心配だが、今はそっとしておいてあげよう
ノアは崩れたルイスの髪型を背伸びでサッと戻す
それに応えるようにルイスも屈んでくれて、綺麗に髪型を直すことができた
「今日はしっかり休んでください」
「…ありがとう。また、明日」
「はい、また明日」
ものすごい形相のグレンを尻目に、去っていくグレンの姿が見えなくなるまで見守った
兄やリュードは、ルイスを散々悪く言うが、やっぱりノアは信じられない
ルイスは優しくて、かっこいい先輩だ
噂どうこうは、やっぱり何かの誤解だろう
あんなに弱弱しいルイスを見てしまっては、そんな事をするように思えないのだ
「ノア様、大丈夫ですか?」
「?何が」
「………いえ、なんでもございません」
突然グレンにそう聞かれ、ノアは不思議そうに返す
何事もないノアの顔を見て、グレンは苦虫を潰したような顔で、言わんとした言葉を呑み込んだ
不思議に思いながらも、ノアは気にせず部屋に入る
その後、ルイスが去っていった方向を、グレンが鋭い目つきで睨んでいたことを、ノアは知らない
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