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先輩×後輩
控えめに揺すられ、僕は目を覚ました。
「起きれるか?」
ベッドの縁に座る部屋着姿の先輩が、優しい眼差しで寝ている僕を見ている。脱がされ、乱れた衣類は元に戻っており、汗や下着の不快感もなかった。「やりすぎてごめんな」と頭を撫でる手のひらの温もりに胸がいっぱいになる。心臓が窮屈そうに縮こまったが不思議と、もうどこも痛くはなかった。
「泊まっていくか?」
「大丈夫です。寝ちゃってすみません」
「無理すんなよ」
起き上がろうとする肩を支え、寝癖に手櫛 を通される。
「ずっと言おうか迷ってたんですけど」
「うん」
「先輩って、お母さんみたいですよね」
「はぁ?」
自覚がないんだと笑いが込み上げる。先輩と出会って、数回えっちした後のまだ悩みのない頃の関係を思い出した。行為が終わると心配ばかりする先輩に僕はふざけたことを返し、恥ずかしさを隠し、時には気まずさを楽しんだりしていた。忘れていたが、この人はからかい甲斐があるのだ。喋ったら喉が渇いていると気づき、コップに手を伸ばす。
「ゆっくり飲め」
「ふふっ」
「笑ってこぼすなよ」
「じゃあ、帰りますね」
「やっぱ泊まるか?」
「大丈夫です」と答えると、送っていくと立ち上がったので、それも「大丈夫ですから」と断った。先輩はとても不服そうだった。
「そんなに心配?」
「俺は、慎重なんだよ」
「大丈夫ですよ」
カバンを担ぐと、僕は振り返って言った。
「明日も明後日も、ずーっと一緒だから。今日は帰ります」
そうしてやっと僕は、先輩の赤く火照った顔を見た。想像したよりずっと愛おしくて、ずっと単純で、ずっとずっと、えっちだ。
(終)
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