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はじまりの季節2
千屋が喫茶店を出て行ったあと、俺は千屋が置いていった画集を手にゆっくりとアイスコーヒーを飲む。
締め切り前のものがあるけれど、まぁまぁ進んでいて少しくらいゆっくりしていく時間はある。なので少しゆっくりするのは問題ない。
コーヒーを一口飲んで、千屋が置いていった画集をおもむろに開く。ページを捲っていって、あるページで手が止まった。
そのページに描かれていたのは海の絵だった。
目が痛くなるほどの海の青。そして雲一つない真っ青な空。ページ全体が青く染まっている。ページには青以外の色は一切ない。
ただの青とも言える。けれど……。
ドク――
心臓が大きな音を立てる。
トーンが違う2つの青に吸い込まれる。
ただの青ということだってできるのに、俺は息をするのも忘れてただ絵に見入る。
ページを捲ることもできない。
海と空をただ青で描かれただけの絵だけれど、それがなぜこんなにも引き込まれるのか。理屈を問うても答えはでない。ただ感情が揺すぶられ、感情に訴えかけられる。こんな絵は初めて見た。
海の濃い青。空の明るい真っ青な青。
一口に青と言ってもそこには2色の青がある。いやもっとかもしれない。でもそれだけなのだ。
雲が描かれているわけでもない。鳥も魚もなにもそこには描かれていない。ただ色が塗られているだけ。
だけど、その絵は強い力で見る者を圧倒し、絵の世界に引きずり込む。
どれくらいその絵を見ていたのだろうか。ふと我に返りノロノロともう一杯コーヒーを口にし、画集のページを捲る。
パラパラとページを捲っていくと千屋が言った通り様々な絵があった。
一面のラベンダー畑。海の中を自由に泳ぐ色取り取りの魚。そんなカラフルな絵があるかと思えば、中には白と黒のみのモノトーンの世界もある。
恐らく基本的には鮮やかな色の絵を描くのだろう。画集の中は色取り取りの色で彩られている。この画家の中には一体どれくらいの色があるのだろうか。
青と言っても何色もあったように濃淡で様々な絵を描いている。
それくらい沢山の色を用いて絵を描いているけれど、この画家の魅力を一番現しているのは青だと思った。
真っ青な青から深い青。様々な青で描く海や空が印象的で、薬井直人という画家に興味を持った。
これはちょっと楽しみかもしれないな。
人見知りにも関わらず、そんなことを思うくらいにはこの画家と会うことが楽しみになっていた。この絵を描いたのはどんな人物なのだろうか。
付き合いのために仕方なく行くパーティーだったが、パーティーの日が楽しみになった。
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