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薔薇が咲く日6
薔薇園へ行った1週間後。薬井さんから薔薇の花の写真が届いた。もちろん、あの青い薔薇の写真もある。そして、よく見ると折り畳んだ紙が入っていることに気づく。広げてみると薔薇の絵だった。俺が頼んだから描いてくれたんだ。
仕事の合間に描いてくれたのだろう。綺麗なピンクやイエローそして赤。でも、その中に青い薔薇は入っていなかった。
少し落胆していると、紙は重なっているようで、1枚ではないことに気づく。
紙は後2枚あった。1枚は青い薔薇。そしてもう1枚はレインボーカラーの薔薇。レインボーローズだった。
青い薔薇は、少し紫がかっているのでDNA改良型だろう。
あの青い絵のようなインパクトはないけれど、それでもただのスケッチではない。そこには凜と咲く一輪の青い薔薇がある。
それは、なんて言葉にしたらいいのだろうか。どこかしどけなく、人で言うなら色気を感じる薔薇。
その青は、本物の青い薔薇よりも紫味の強い青だった。その青を見て、こんな青もあるんだなと思う。
スケッチ程度と言っていたから本気を出して描いたわけじゃない。それなのに、その絵には薬井直人の世界があった。
明るい色やレインボーローズは特になにかを感じることはない。けれど、その青い薔薇だけが世界が違うように感じる。やっぱり薬井さんは青が独特だ。3枚も描いて貰ったのに、俺は青い薔薇に目を奪われて他に目がいかない。
写真立てには、現像して貰った青い薔薇の写真を入れたものの、薬井さんに描いて貰った薔薇の絵は千屋に貰った、薬井さんの画集の中に畳んでいれた。
画集を開いたついでに、あの青い絵のページを開く。
やはり迫力が違う。心を鷲づかみされる。圧倒的迫力。目を奪われて逸らすことができない。何度見ても見飽きることはない。
でも、と思う。この青だって俺が見ているものと違うように感じるのだから、スケッチではなく、薬井さんの目に見えている世界を色で現して貰ったらどうなんだろうか。俺に見えている世界と同じなのだろうか。薬井さんの目を通すと、この世界はどんな色なんだろう。それがとても気になった。
薬井さんの目に映るこの世界を見てみたいと思った。もし今度また、どこかへ出かけることがあれば、その世界を色で描いて貰いたいと思う。
お願いしてばかりだなと思うけれど、薬井さんの描く色が好きな俺はねだりたくて仕方ない。とりあえず写真とイラストを貰ったのだから礼をしなければ、とメッセージアプリを開く。
【写真とイラスト、ありがとうございました】
【今度、薬井さんに見えている世界の色を描いて欲しいです】
つい送ってしまったおねだりの言葉。薬井さんの見ている世界を見てみたい、その欲求は抑えることができなかった。それまでは、貰った青い薔薇の絵を見ていよう。
それは薔薇が咲き誇る初夏のことだった。
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