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紫陽花の季節に4
スマホのディスプレイを眺めながらメッセージが来るのを待つ。いくら眺めたって来るときは来るし、来ないときは来ない。そんな当たり前のことはわかっているのに神経はスマホに向いたままだ。理由なんて簡単だ。それは好きな人からのだから。
会ったのはたったの5回。しかも、そのうちの1回はカウントしていいのかさえわからない。サイン会だったから都谷先生は俺のことなんて記憶にない。ただの一ファンにすぎない。
きちんとお互いを認識して会ったのはたったの4回。千屋さんの勤める出版社の50周年記念パーティー以降だ。
パーティーで千屋さんに紹介して貰ったとき、雷が落ちたようにビリビリと来た。俗に言う一目惚れ。ロマンティックに言うなら運命の出会い。でも運命の出会いなんてベタなロマンス物みたいで抵抗があった。それでも薔薇園に行ったときには認めるしかなかった。どうやっても「好き」という感情しかわかなかったのだ。だから好きだと言った。想いはそのままに。でも好きだという音は軽くして。
先生にしてみたら男からそう言われるのは友情として、ファンとしてしか受け止められないだろうとわかっていた。だからわざと誇張して言ったりもした。
幸いにも嫌悪感はないようで「なにを言ってるんだ?」という顔をするだけだったので、それが俺をつけあがらせた。
薔薇園に行った後は先生が忙しいということで会うことは出来なかった。ただメッセージが来るのを待つのみだった。
まるで初恋のようにドキドキとして、なにも手につかなくなって。いい歳をした自分がそうなることに呆れたりはするけれどこんなにも恋い焦がれるのは初めてだ。まるで今までしてきた恋愛が全ておままごとのように感じてしまうほどに。
また会えるかな?
会ってくれるかな?
俺はポジティブと言われるけれど、このときばかりはポジティブではいられなかった。たった3回あっただけの画家のことなんて仕事に忙殺されていたら忘れられても不思議じゃない。それが怖かったのだ。しかも相手は超がつくような人見知りだ。それが俺を余計に心配にさせた。それでも信じて待った。
結果、そんな心配は無用だったようでメッセージのやり取りをしている中、言葉の中に気安さを感じた。それがどれだけ嬉しかったか、そしてそれがどれほど俺を自惚れさせたか。それは先生の預かり知らぬことだけど。
自惚れた俺は少しずつ距離を近いものに持っていきながら、かつ好意を嫌がられない程度にアピールしていった。
そして先生の忙しさが一段落ついて会ったときは、辛抱強く待っていて正解だったと思った。俺はただ諦められなかっただけだけれど。
ただ好きなだけなら心折れていたかもしれない。でも、そんなに簡単に折れてしまうような想いではなかったから粘り強く待っていられたのだ。
そしてその粘り強さが正解だと知ったとき俺は、以前よりも少し想いを乗せてアピールしていった。
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