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この先の季節も君と4
「よくこんなところ見つけましたね」
向日葵畑の近くのコインパーキングに車を止め、歩き始めた俺の第一声はそれだった。こんなに広い向日葵畑が都心から日帰りできる距離にあるのが驚きで、どうやって見つけたのか不思議だった。
俺の問いに、
「たまたまなんです。海を見に近くまで来たんですけど、そこから近くをドライブしてたら見つけて。近くに電車の駅とかないから人も多くなくて。もう少し行くともっとすごいですよ」
「今日はカメラ持って来てないんですか?」
「ミラーレスを持って来ました」
そう言ってカバンを叩く。
確か薔薇園に行ったときに持っていたのがミラーレスと言っていた気がする。
「ミラーレス、新しくしたんです」
「じゃあ手持ちの一眼レフと変わらない?」
「ええ。一眼レフ持って来ようとしたけど、新しいの使いたくてこっちを持って来ちゃいました」
そんな会話をしている俺たちは車に乗っていたときのピンと張り詰めた空気ではなく、今まで通りの俺たちのようだった。いや、それもお互いに気を使っているのだろうけれど。
そうしてしばらく歩いた先には、まさに向日葵畑だった。
「すごいな……」
文字を書くことを生業としているのに、そんな陳腐な言葉しか出てこなかった。
「すごいでしょう?」
「ええ。ほんとにすごい」
「この景色を見つけたとき先生にも見せたくて。一緒に見たいと思ったんです。だから、一緒に来れて良かった」
そういう薬井さんは途中から泣き笑いのような表情をしていた。薬井さんはきっと俺が思っていた以上に苦しかったんだなと思った。
最初、俺は自分の気持ちがわからなくて。気づいてからはどうやって返事をすればいいのかわからなかった。でも、その間の薬井さんはどうだっただろうか。俺には想像できないくらい不安だったんじゃないだろうか。そう考えると自分から連絡を取るのが恥ずかしいとか言って、ただの逃げだったと自責の念にかられた。
もう苦しまなくていいよ。不安にならなくていいよ。俺も勇気出すから。
「空、綺麗ですよね」
俺がそう言うと薬井さんは、急に何を言うんだろうと目をキョトンとさせている。そんな薬井さんが可愛い。
「青い色を見ると薬井さんを思い出すんです」
「俺を?」
「ええ。薬井さんの描いた青い空と青い海。それと青い薔薇。全部青じゃないですか」
「……」
一体何を言っているんだ、という顔をしている。
「だから、俺の中では青イコール薬井さんになってるんです。……俺、青好きですよ」
「え?」
俺の言葉をどう捉えていいのかわからずに悩んでいるようだった。
ここまで来て恥ずかしいとかあったものじゃないけど、さすがに直球では言えない。だから少し遠回しに言ったけれど伝わっていないのでは意味がない。遠回しとは言え勇気を出したんだ。伝わって欲しい。
「もっと色んな景色を薬井さんと見たいと思ってます。後、青い薔薇の花言葉。奇跡、神の祝福でしたっけ? あのときから神様に祝福されてたんだと思いますよ」
「え……。先生、それって……」
「はい?」
「俺、自惚れていいんですか?」
「いいんじゃないですか? 神様が祝福してくれているんだから」
「先生……」
俺の言っている意味がわかったからか目を潤ませている。
「なに泣いてるんですか。告白したのは薬井さんの方ですよ」
「でも、期待なんてしてなかったから」
「それでよく告白できましたね」
「抱えているのが辛くなってきてたから」
抱えているのが辛い……。
その言葉に薬井さんの気持ちの大きさがわかる。
遊びじゃない。と言っていたけれど、ほんとにそうだったのか。そう思うともっと早く返事をしてあげれば良かったと思った。
「こんなとこで泣かないでください。もっと向日葵の見どころに連れて行ってくれないんですか?」
「あ、行きます」
「じゃあ行きましょう」
「はい!」
木蓮の花が咲く頃に出会い、花雨の頃再会し、薔薇の季節と紫陽花の季節を共に過ごした。そして向日葵の季節に想いを通わせた。これからやってくる季節も一緒に過ごせたらいいなと思っている。
拝啓、木蓮の花咲く頃出会った君へ……
END
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最後までお読み頂きありがとうございました。
ただ淡々としたお話しなので読んで頂けるか不安もありましたが、とりあえず完結しました。
明日からは「遠回りのしあわせ」の番外編を連載します。
番外編なのにやたら長いので連載になります。
よろしければそちらもお読み頂けたらうれしいです。
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