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この先の季節も君と3
薬井さんから連絡があったのはそんなときだった。
【向日葵畑を見つけました。とても綺麗ですよ】
真っ青な雲一つない青空の下、太陽に向かって咲く向日葵の画像を添えて、たった一言のメッセージ。
最後に会ったのは紫陽花が咲き誇っていたときだった。もうそんなに時間が経ってしまっていたのか。
その後は薬井さんから連絡もなかったし、こちらからも連絡はしなかった。自分から連絡するのは恥ずかしくて出来なかったから。
でも、もしかしたら薬井さんは不安だったかもしれない。いや、不安だっただろう。だって、告白したのに何の連絡もなかったのだから。少なくとも俺なら不安になる。そう思うと薬井さんだけに頼るのはズルいと思った。
きっとこの一言だって悩んだ末かもしれない。そしてそのことに背中を押され、俺も立ち向かわなくては、そう思った。
【どこですか?】
文字通り一言になってしまってそっけないと思わないでもないけど、それ以上の言葉は浮かばないし、必要だとも思わなかった。
今までもこんな感じだったからこれでいいのかもしれない。薬井さんもそんな気持ちだったのではないかと思う。
俺がメッセージを送ってからすぐに返信があった。
【行ってみませんか?】
【行ってみたいです】
【少し遠いけど、先生の仕事が大丈夫なら今度行きましょう】
そんなやりとりは今まで通りで、なにも変わったようには感じない。それはきっと俺が今まで通りに接していたのもあるし、薬井さんもいつもとなにも変わらなかったから。
俺はどう返事をしたらいいのかわからなくて。薬井さんは返事が怖かっただろう。きっとお互いが怖がっていたのだろう。だけど、怖がっていたら前に進めない。
薬井さんは勇気を出して告白をしてきたのだろうし、俺は時間はかかったものの自分の気持ちに気づいた。なのに返事をする術がわからなかった。だけど俺は薬井さんの勇気を無駄にしたくなかった。そして自分の小さな勇気も。
薬井さんと花を見に足を伸ばすときはいつも薬井さんの運転する車だ。俺はそんな薬井さんがうちのマンション下に着くのを部屋で待つ。
自分の気持ちがわかってから初めて会うのもあり、ドキドキしながら薬井さんを待つ。約束の時間ぴったりに薬井さんから下に着いたとの連絡が入る。
「お待たせしました」
いつもは真っ直ぐに俺の目を見る薬井さんが、ほんの少し視線をずらしている。その様子を見たとき、少し寂しかった。やっぱり薬井さんも不安なんだ。
「いいえ」
「道路が混んでなかったから良かった」
普段通りの薬井さんの声……ではない。緊張を伴った声だ。その薬井さんの気持ちを無駄にはしたくない。
薬井さんに誘われたところまで高速に乗り約2時間。社内は言葉が少なく、俺は車窓を眺めていた。
着いたのは辺り一面の向日葵畑だった。
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