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第20話
「灯織くんー今日は楽しく飲めて良かった! また連絡するね!」
「うんっ! 今度は同伴しようね。気をつけて帰ってねーおやすみ!」
店の出口まで見送って、シオリちゃんがタクシーに乗って走り去るまで手を振り続ける。少し変顔したら手を叩いて爆笑してくれた。いい子だなー。てか、今日飲みすぎたな。おもちパワーすぎる。綾人さんち、帰ろ。
今日はラスソン、雪さんだった。俺は2番目。惜しかった。あと2人くらい強めのお姫が欲しい。
営業後に雪さんから聞いたんだけど、俺の同棲してた恵比寿タワマン住みお姫、ちゃんと店の住所に俺の服とか私物を送ってくれたらしい。最後まで優しい。そんなお姫の1番になり続けたかったな。俺の、力不足だな。
やっぱり俺、まじで女アレルギーなんだな。帰り道、いつもみたいに。歩きながら嗚咽が止まらない。大男が柄にもなく涙が止まらない。飲み干した酒の全てを、瞳から排水するみたいにして。
泣きすぎると頭が熱くなって、ぼーっとするし、頭も痛くなる。毎度のことやし。仕方ない。
例えるなら、玉ねぎみじん切りした後に、ツンって涙目になる感覚かな。
おもちと出会えてよかった。
だってあんなにも優しい人と出会えたんだもの。
ーーーーー
タクシー拾って、綾人んちの前に下ろしてもらう。鼻声が痛いが、涙はなんとか止まった。かわりに鉛みたいに重い眠気がやってきた。階段をゆっくりと登る。スマホ見たら、深夜3時過ぎ。きっともう2人とも寝てる。起こさないように玄関を開ける。
部屋は真っ暗で、とりあえず喉乾いたから冷蔵庫開けたら、見つけたよ。ジップロックの箱の蓋に、ピンクのふせん。
「お疲れ。お好み焼き食って寝とけ。おもちは今日は去勢手術をした。キンタマなくなるなんて、男だったらおっかねえよな。綾人」
「キンタマ……」
綾人の丁寧な字とは毛色の違うキンタマって、パワーワードすぎる。綾人、ギャグ線高すぎない? ていうかさ、お好み焼き大好物。大泣きしたことも忘れて、レンチンして食べる。うまい、うまい。願わくば、あちあちの出来たてを食べたいな。
おもちえらしゅぎる。さすが俺の子!!
ニャクテンという猫用品専門のオンラインショップで買った猫用ケージの中の、ふわふわのベッドの上でおもちがヘソ天して寝ているのを確認してから、寝室に向かう。
音を立てないように、部屋に入る。スマホの光で足元を見ながら、既に敷いてある布団に横になった。
綾人がいつも、布団を敷いてくれている。優男じゃん。
見上げれば、綾人の寝てるベッドがある。
この幸せを忘れないように。
この時間を刻むように。
もうちょっと、お仕事がんばろう。
おもちの成長を1番近くで間見守りたいから。
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