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第22話
ちゅーるのパッケージを見た瞬間、おもちは灯織の膝の上で行儀よく前足を揃えて座り、お利口さんになる。元々、イタズラも少ないいい子なので、さらに好きになってしまう。
おもちにちゅーるをあげていると、LINEの通知が鳴った。見れば、シオリちゃんからのメッセージが届いていた。仕事の愚痴のようだった。先週会った2回目の来店のときに、新しい部署の部長と馬が合わないと嘆いていたっけ。
灯織の肌感だが、ホストクラブに来るような女の子は強いストレスを日々感じている人が多いような気がする。仕事、人間関係、親子関係、友達関係、恋人関係。発散することが難しい人ほど、ホストにどハマりする。
お姫は、普通のOLさんから経営者、キャバ嬢、風俗嬢、看護師、保育士などいろいろいる。灯織はその子たち一人一人に合わせた営業を行っている。約2年間のホスト人生のうちに経験したことを今に生かせているはずだ。
シオリちゃんに寄り添うメッセージを送ってから、綾人との待ち合わせまで少し一眠りしようと思った。スマホのアラームをかけて、おもちを抱っこして綾人のベッドの上に横になる。綾人の付けているムスク・アプリコットの香水の匂いが微かに香る。
これ、いい匂いなんだよなー。
ベッドの中で丸くなり、おもちとの昼寝を存分に味わった。幸福すぎて、笑ってしまう。
ーーーーー
「ねー。どこ行くん?」
「まあいいだろ。着いてこい」
ハチ公前で綾人と落ち合ってから、繁華街を10分歩いている。訝しみながらも、綾人の後ろを着いていくと、雑居ビルの前で立ち止まった。エレベーターに乗り込み、数字の5のボタンを押す。綾人は仕事終わりにも関わらず、疲れを見せずむしろ喜ぶようにしてうきうき浮ついている。
なんなんだよ。一体。
チーン、とエレベーターが開くとそこは。
「いらっしゃいませー」
猫耳を付けたメイド服らしきひらひらフリルを着た女たちが複数出迎えてきた。
「2名様ですね。こちらのカウンターのお席へどうぞ〜」
灯織は、内心うわあと青ざめていた。なぜならそこはーー。
コンカフェと呼ばれる形態の女の子が接客してくれる店だったからだ。女アレルギーの灯織は、心臓がバクバクと早鐘を打つのを感じ、背中に冷や汗が垂れる。
普段、ホストクラブならお姫よりホストのほうが人数が多いから気持ちが紛れるのだが、それとは逆のこの環境にこめかみに痛みが走る。偏頭痛のようなそれに耐えて、チラリと綾人を見れば綾人はカルーアミルクをぐいぐい飲みながら、コンカフェ嬢と仲睦まじく冗談を言い合っている。
やば。これは強烈。
灯織は注文したパインサワーで、一旦冷静さを保とうとする。
灯織の女アレルギーは日によって強弱があるが、今日はまだマシなほうだった。涙目になるかならないかぐらいのプレッシャーを感じた。
「おにいさん。めちゃくちゃかっこいいですね!」
「あ、うん」
正面でお酒を作っているコンカフェ嬢に話しかけられ、素っ気なく返す。すると、それを見るやいなや隣に座る綾人が。
「ほら。お前の腕の見せ所なんじゃねえの?」
とニヤついた顔で灯織を見てくる。灯織は呆れたようにして
「なんで業務外で女にぺこぺこしなきゃなんねえんだよ」
と返す。
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