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僕らしくない...?

不意に目が覚めると奏の姿はなく、ソファに寝かされブランケットを掛けられていた。 「あ。起きました?店長。お水飲みます?」 空いたシャンパンやワイン、グラスや皿を片付けていた光の目に止まったらしい。 「う、ん...奏は?」 「明日が早いから、て帰りました。また来る、て言ってましたけど」 はあ、とため息をつき額を抑えた途端、くすくすと笑われた。 「類らしくないね」 傍にマフィがいたらしい。 「じゃ、俺、お水持ってきますね」 マフィは僕の寝そべるソファに移動し、膝枕してくれた。 「僕らしくない...?」 マフィの無骨ながら長い指が僕の髪を優しく梳いてくれる。 「うん。あの元彼...奏、だった?あれだけの大金を使ったのに。いつもの類ならため息なんてつかない」 「それは...アイドルは人気商売で今は売れてるとはいえ、いつまで持つかなんてわからないのに...無闇に無駄金を使って欲しくないし...」 「類。本当はどうして彼と別れたの?」 どき、とした。 と、同時に、光がグラスに入った水を持ち入ってきた。 「そんなことより、店は?まだ閉店には早いんじゃない?マフィ」 光から受け取った水で乾いた喉を潤しながら尋ねた。 「ああ、類の元彼があれだけお金を使ってくれたんだ。今日の稼ぎは充分すぎるよ。それに晶は酔っ払ってしまってバックヤードで眠ってるし」 「え」 思わず光を見る。 晶の推しが奏だからだ。 「だ、大丈夫だった?晶」 「大丈夫、てなにがですか?」 ぽかん、とした顔で光が小首を傾げる。 「や、だって、晶は奏を...」 ああ!と光が笑う。 「なんか、店長と奏様が絵になるー♡とか、漫画が描けたらなあ、とか訳わかんないこと言ってました。なに喜んでるのかわかんないですけど、俺も」 「そ、そう」 「マフィと奏とで店長を奪い合いとか萌えー♡とかマジ訳わかんないですよねえ」 光が不思議そうに頬をポリポリ搔いているが、僕もよくわからないので、確かにね、と苦笑した。 それからも奏は暇な時間、店に来るようになった。 「地方ロケ、行ったからさ、お土産。みんなで食べてよ」 カウンターで渡されたのは菓子折りみたいだった。 「そ、そう...ありがとう」 「お前にはこれ」 「....なに、これ」 地方ロケのお土産がブランド物の腕時計...? 「....これの何処が地方ロケのお土産なわけ」 「地方で買ったんだからそうだろ?」 不屈な笑みに返す言葉が見当たらない。 「類、明日さ、久しぶりのオフなんだ。久しぶりに飲み行かない?」 「....久しぶりのオフなら、僕と時間、持て余してないで」 「類、行っておいで」 不意に笑顔のマフィにそう唆された。 あの日の夜。 『あの彼の気持ち、僕にはなんとなくわかるよ。唐突に類に去られた気持ち。それに類のその頃の本当の気持ちもね』 マフィは子供に話すかのように優しく僕にそう言った。 あの頃の僕の思い...、今の僕の気持ち。 お互いに年月を経て成功した、それは僕が奏に別れを告げたからだ、僕はそう信じきっていた。

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