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「全く、薬がなければろくに性欲も抑えられないなんて、気の毒な体だな」  そういう源父の口調からは、欠片も悪意というものが見て取れない。ただ本心からペニンダの性質を憐れんでいるのだ。  一方で随父の醸し出す態度からは、ペニンダであるフィルを侮り、蔑んでいることがひしひしと伝わってくる。 「リース様に何かあれば、その身を挺して守るのだぞ。それでこそペニンダとして生を受けた価値があるというものだ」  直訳すると、ペニンダにはエーナやディオを命懸けで守ることしか価値がないということだ。自らが子を産めない性である以上、あながち間違ってはいない。 「(わたくし)はリース様に忠誠を誓った身です。リース様のためならば、命をも喜んで差し出しましょう。それが私の使命だと、しかと心得ております」  これは本心だった。フィルはこの命に代えてでも、生涯リースに仕え、奉仕すると心に決めている。 「よい志だ。ところで今日、リース様はどうなされているのだ」  源父に尋ねられ、フィルは頷いた。 「ええ。リース様は今日、王配様からのご命令で城へと出向いております。何でも、国王様のご様態がまた幾ばくか悪化されたようで……」  国王ランスロットは、今年で四十八歳になる。年齢的にはまだ十分現役なのだが、いかんせん二年ほど前から様態が優れず、一部国民の間ではすでに次期国王を誰にすべきかとの議論が上がっている。 「それは大変だな。もし今王座に空きが出ようものなら、きっと国中で混乱が起こるだろう。せめてリース様が正式な王権を得られる二十歳まで、国王様がご健在であられればよいのだが……」 「いいや。そうでなくとも、正当に行けば王座を継ぐのはエーナであられるリース第四王子以外ありえないだろう。高潔なるエーナの血筋を絶やさないためにも、同じくエーナであるリース様が国王になるほかないのだからな」  口々に意見を言う源父と随父を、フィルは黙って見つめる。  源系遺伝(げんけいいでん)という源父からしか引き継がれない遺伝子があることから、この国では代々エーナが国王の座に就くという習わしがある。子を産めるという点ではディオにもその資格があるのだが、生命の源であるエーナを退けてまでディオが国王になったという例はまずない。  国王の息子は四人。第一王子ラサニエル、第二王子ウォルター、第三王子アーロン、第四王子リース。第一王子ラサニエルはペニンダのため端から後継者としての資格がなく、第三王子アーロンも、王配が産んだ子どものため埒外だ。第二王子ウォルターはディオで、エーナである第四王子リースの存在がある時点で王権を継ぐ資格はないものとされていたはずなのだが……

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