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 しかしながら、この世で唯一子どもを産む能力を有していないペニンダの社会的地位が低いことに依然として変わりはない。いくら犯罪率が低下し、見た目で判断しづらくなったとしても、遺伝子レベルで欠陥品というのが生物学的見解だった。  去勢されるペニンダが増えて以降は必然的にペニンダの出生率が低下しているが、フィルのように、たとえ両親がペニンダでなくとも偶発的にペニンダの子が産まれることはある。 「ところでフィル。おまえ、抑制剤は欠かさず飲んでいるんだろうな。トチ狂ってリース様に手を出したりなんかしたら、我々の首まで飛びかねん。おまえを信じて去勢手術を受けさせなかった我々に対し、そのような仕打ちをするでないぞ」  随父が言い、源父も厳格な所作で頷いた。 「……ご心配をおかけして申し訳ございません。もちろん、抑制剤は欠かさず飲んでおります」  抑制剤とは、一部去勢をしていないペニンダが、性欲や凶暴性を抑えるために一日一錠服用する薬のことだ。去勢推進法ができた数年後に開発された薬で、以降、未去勢のペニンダは必ずこれを服用し、月毎の定期検診に通わなければならないという新たな法律が定められた。  去勢同様一長一短ある薬ではあるが、生殖機能を残したまま性欲や凶暴性を抑えられるというメリットは大きい。しかしながら、意図的に服用を怠った際や飲み忘れのリスク、月々の薬代、定期検診代などを考慮すると、手っ取り早く去勢しておいたほうがいいと考える親が圧倒的に多かった。何より、未だ撲滅しきれていない犯罪者のほとんどが未去勢のペニンダであることから、一目見て去勢していないとわかるペニンダの肩身は今まで以上に狭くなっている。  そんな社会風土の中、両親がフィルに去勢手術を受けさせなかったのには理由があった。何でも、フィルは幼い頃からずいぶんと真面目で聞き分けがよかったらしく、あえて去勢をする必要はないと判断したそうなのだ。  とはいえ月々の薬代や定期検診代などの費用を賄うため、フィルは早い段階から下男として働きに出され、自分の金は自分で稼ぐという術を身に着けさせられた。ひたむきな努力と体力面の優位性から城の従僕には昇任することができたものの、本来、ペニンダたるものが執事にまで上り詰めるなんてことはまずありえない。一生従僕止まりだったはずのフィルを執事として任命してくれたリースには、感謝してもしきれないほどの恩があった。

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