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「久しぶりだな、フィル。……ほう、タキシードがずいぶんと様になっているではないか」  久々に訪れた実家にて、正面のソファに腰掛ける源父が感心したように眉を上げる。 「ペニンダでありながら執事にまで昇任するとは、おまえもなかなかのやり手だな。さすが、我々の息子だけある」  源父の隣に座る随父もまた、満足そうに口角を上げながら言った。 「……ひとえにリース様の御心あってのものです」  謙遜ではなく本心から告げたフィルに、随父は声を上げて笑った。 「それはそうだとも、フィル。本来従僕止まりだったはずのおまえを執事にまで昇任させてくれたリース様には、心の底から感謝しなくてはならん。そして、そんなおまえを下男として働きに出してやった我々にもな」 「……心得ております」  両親には感謝している。一昔前なら産まれてすぐに捨てられることもあったペニンダの息子を、見放すことなく育ててくれたのだから。  元来、凶暴性が高く性欲に支配されがちなペニンダは、その著しい犯罪率の高さから野蛮で低俗というレッテルを貼られ、人々から嫌悪されていた。人口のおよそ十パーセントにも満たない種にもかかわらず、性犯罪を筆頭としたありとあらゆる悪行を働く者の九割がペニンダであるという事実からして、無理のない話ではある。  この国では、他人に危害を加えるような人間を生み出し、真っ当な子育てをしなかった親にも責任があるという考えから、罪人の両親にもそれなりの刑罰が科されることになっている。我が子の行いによって自らの人生を台無しにされる可能性や、世間から冷たい目を向けられることを恐れ、当時、産まれてすぐの段階で捨てられるペニンダが跡を絶たなかった。  風向きが変わったのは、今から五十年ほど前――国が去勢推進法を制定したあたりのことだ。性欲や凶暴性を抑えることができる去勢手術を無償化し、推奨することで、孤児の数や犯罪率を大幅に減少することに成功した。  去勢には一長一短あり、主なデメリットとしては子どもが作れなくなること、またペニンダ特有の高い身体能力が衰えてしまうことが上げられる。しかし、そもそもペニンダがエーナやディオに生殖相手として選ばれる確率は低い上、身体能力と比例して犯罪率が高いことを考慮すると、一概にデメリットとは言い切れなかったりもする。  一方、去勢することによって得られるメリットは確実だった。犯罪率の低下はもちろんのこと、発情時のストレスが軽減することによってペニンダ自身がより健やかに生きられるようになるといった事実から、大半のペニンダは幼少期のうちに去勢手術を施されている。   手術は第二次性徴までに行うのがよいとされ、早ければ早いほど見た目のペニンダらしさも軽減される。一見してペニンダとわからなければ社会にも馴染みやすいため、去勢推進法を機にペニンダへの差別意識も幾分か緩和した。

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