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「言葉を慎めクラウス! 相手はこの国の第四王子であられるリース様だぞ! おまえのような礼儀知らずで無神経なヤツがいるから、未だにペニンダは低俗だと罵られるんだ! もう少しフィルを見習ったらどうだ!」
ウォーレンのそれは、フォローのようでフォローになっていなかった。リースのことを完全に恋愛対象外として無神経な発言をするクラウスと、リースのことを恋愛対象として意識するがゆえに過剰反応する自分。どっちもどっちどころか、下手をしたらこちらのほうが問題かもしれない。
何とも言えない気持ちでリースの着替えを済ませ、終いには、フィルはベッドに腰掛けるリースの足の甲にキスをした。
「坊ちゃま、お着替えが終わりました。とてもよくお似合いです」
「ははっ、フィルってば変なのー!」
リースはぽいっと足を向こうにやって、けたけたとおかしそうに笑う。
足の甲へのキスは、服従と隷属の印だ。いつものリースなら「くだらない真似はよせ」と照れながら怒るところなのにと、フィルは顔を顰める。
「さてと、着替え終わったんならもう振り返ってもいいよな。んじゃ、そろそろアイル様に覚えてること全部話してもらおうか」
クラウスが振り返り、そばへと歩み寄って来る。リースの前に来るなり、ひょいとその場にしゃがみこんで視線の高さを合わせた。
「まず大前提として、坊ちゃまの名前は?」
尋ねたクラウスに、リースはにこっと笑って答える。
「僕のお名前はアイル! アイル・ローズドベリーだよ!」
「リース様っ!」
「坊ちゃま……」
声を上げたウォーレンに続き、フィルは呆然と呟く。
まさか本当に、この少年はリースではないというのだろうか。
「……よし、それじゃあアイル様。アイル様には確か、双子の兄貴がいるんだよな? お兄ちゃんの名前は?」
クラウスは冷静に尋問を続ける。
「お兄ちゃんのお名前はリースだよ! 僕はこれまで、ずーっとお兄ちゃんのそばにいたよ!」
返答に、フィルは眉を寄せた。同じく疑問を抱いたらしいウォーレンが割って入る。
「おかしいですね。私は長らくリース様の家庭教師として仕えていますが、リース様がアイル様と一緒におられるところは見たことがありません。『一緒にいた』というのが具体的にどういうことなのか、詳しくご説明いただけますか」
厳しい口調での問いに、リースはうっと怯えたような表情を浮かべた。
「僕……僕、よくわからないよっ。でも、ほんとにお兄ちゃんのそばにいたよっ。嘘じゃないもんっ」
「だったらそれを証明してみせてください。証拠の一つもなしに、あなたをアイル様と断定することはできません」
「おい、ウォーレン――」
目に涙を浮かべるリースを庇うように、クラウスが声を発した。振り返って、ウォーレンはきつい口調で言う。
「おまえもだぞクラウス! 何の根拠もなしにアイル様、アイル様などと悪ノリして……っ。もしこの方がアイル様だと言うのなら、我々の主人であるリース様の魂はどこに行ってしまわれたと言うんだ!」
「それは……」
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