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初めて彼を見たとき、真っ先に思い浮かんだ言葉は『孤独』だった。
城の最上階の窓から、ひっそりと外の景色を眺める金髪赤眼の少年。悪魔の目と称されるその真紅の瞳は、しかし冷たさよりも哀しみを多く纏っているようで、フィルは一瞬にして彼の持つ孤独に引き込まれた。
ゴミの詰まった袋を片手にぼけっと頭上を見上げていると、やがて背後から怒鳴るような声が聞こえてきた。
「おいペニンダ! 何ボケッとしてやがる! さっさとそれを捨てて戻ってこい!」
振り返ると、いかめしい顔をした同期のディオが立っていた。
同じ役職、同じ年齢でもペニンダの扱いは格下だ。エーナ、ディオ、ペニンダ――生物学に基づく格付けが浸透するこの社会で、ペニンダに対し強く当たる人間は、意外にもエーナよりディオの方が多い。
フィルの源父 や随父 がいい例だ。フィルが何かしら失敗をやらかしたとき、血相を変えて怒鳴りつけてくるのはいつもディオである随父だった。これだからペニンダはとか、本当に俺たちの息子なのかとか、随父の言葉や態度にはいつだってペニンダへの蔑視が含まれていた。
その点、エーナである源父は落ち着いていた。怒鳴ったり殴ったり、そんなのとは一切無縁の人だった。
もっともそれは、フィルの源父に限ったことではない。生命の源とも称されるエーナは、そもそもの性質として加害性や攻撃性が希薄なのだ。無駄な争いを好まず、何よりも平和を重んじる。
エーナが唯一牙を向く対象は、その平和に背かんとする人間だ。何よりも平和を重要視しているからこそ、その平和を脅かす存在は徹底的に排除する。
仮にどれだけディオから格下のように扱われようと、だから結局のところ、フィルが最も畏敬の念を払っているのはエーナだった。
「……すみません。すぐにやります」
しかし、依然としてペニンダが底辺である事実に変わりはなく、フィルは同期のディオに対し、遜って頭を下げた。
チッと舌打ちを飛ばして同期が去っていったのを見届けるなり、もう一度頭上へと視線をやる。どうやらあちらにも横槍が入ったようで、金髪赤眼の少年は側近と思しき人物に声をかけられて、窓の前から立ち去るところだった。
自分も仕事に戻らないと、と顔を下ろしかけたそのとき――ふと、少年の目線がこちらを向く。
「……」
わずか三秒にも満たない、流し見たところに偶然フィルがいただけのような一瞬の出来事だった。しかしその一瞬が、フィルの心を惹き付けて離さなかった。
美しいブロンドの髪に、深い真紅の瞳。彼こそ、この国の次期国王と噂される――
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