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 翌日、フィルはアイルの世話をウォーレンに任せて商店街へと出向いた。お遣いなら引き受けるよとフランツに言われたのだが、これだけは自分の目で見て選びたかったのだ。 「恋人さんへのプレゼントですか」  横合いからかかった声に振り向くと、ブラウンのエプロンをした店員が和やかな笑みを浮かべて立っていた。華奢な体格からして、おそらくエーナだろう。 「いえ、お付き合いしているわけでは……」  曖昧に流しつつ、「これを一本お願いします」とオーダーする。店員は快く了承し、棚から数種類の包装紙を持ち出してくれた。 「どの色になさいますか」 「ああ、ええと……どの色が映えるでしょう?」  訊き返すと、店員はううん……と顎に指を当てる。 「じゃあ、黒色なんてどうでしょう。ダンディな雰囲気が、お兄さんにマッチしているかと」  フィルは苦笑いを零し、ではそれでとお願いした。  支払いを済ませ、丁寧に包装された商品を受け取る際、にっこりと店員に微笑みかけられる。 「想いが届くといいですね」  その笑顔が眩しくて、フィルは一言、ありがとうございますと言って店を後にした。  その日は一段とリースに会うのが待ち遠しかった。昨晩、寝過ごして少ししか話せなかったせいもある。  帰宅して以降もそわそわとした気持ちで職務をこなし、夕食と風呂を済ませるなり早々にアイルを寝かしつけた。いつもならここでリースが起きるまで待機するのだが、今日に限ってはそうもいかない。狼のぬいぐるみを抱きしめるアイルがしっかりと眠っているのを確認して、フィルは一度、自室へと引き返した。  そっとデスクに手を伸ばし、横たえていた一輪の薔薇を手に取る。黒い包装紙で丁寧にラッピングされたそれは、日中、花屋で仕入れてきたものだ。血のように赤い花びらが、リースの瞳と重なって見える。  月のプレゼントは拒まれてしまった。現実的に考えて、そんなもの入手できるはずがないのだから当然だ。しかし、薔薇の一輪くらいなら……きっとリースは、かつてのように笑顔で受け取ってくれるだろう。  あのときと今ではあまりにも状況が変わりすぎているが、いつだって変わらない想いがあるのだということを伝えたい。たとえこの先永久に一日三十分しか会えないとしても、フィルがリースを想う気持ちは変わらないのだと知ってほしい。 「坊ちゃま……」  目を瞑り、フィルはそっと薔薇を抱きしめた。少しして踵を返し、リースの寝室へと戻るべく自室を後にする。  廊下に出て数歩進んだところで、ふと、ウォーレンの声が耳を掠めた。

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