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2「熱が」
「あーもう、セフレがいなくなったって時にこんなのどうするんだよ」
じんじんした。胸の奥やお腹の奥のほう、それに耳。叩いて気持ちがいい音が出ると、それを受けて甘く痺れる。
ただ一方的な動画に合わせて手を叩いただけなのに、なぜかそんな風になってしまう。気がつくと画面の中にいるヤマトのタイミングにピッタリ合わせたくなって、夢中になっていた。
「楽しいとかとは違うんだよな……」
八割くらい合わせるのは、大体勘でいけた。でもそれより先の、本当にピッタリ吸い付くようなあの感じになるためには、音が鳴り終わるところまで完全にコントロールしないとダメだった。
手のひらと手のひらが離れて、開いていく。それが開き切ってしまった後に、手首がしなる。戻って来た手のひらが合わさり、圧縮された空気の弾ける音が耳に届く。その音が消えるまでを完全に一つになるようにしなければならない。
そうなるために、耳で音を聞きながら、目でその手先を、彼の目を眺めて、呼吸まで聞き取れるくらいに集中する。
もちろん、それに自分手から出る音を完全に一致させていかないといけない。
普段誰かをこんなにじっと見つめることなんてなくて、その動きを追うのに必死になっていると、時折優しく微笑む姿に気がついてドキッとした。
それからは、ヤマトに合わせようとするたびに、その行為が全て睦ごとのように思えてしまって、だんだん気持ちがそっちに向かっていってしまった。
音が一つになると、誰かに抱かれて一つになった時と同じような高揚感が生まれた。すごく気持ちいいセックスをしてもらった時にだけ感じる、あの溶けて一つになったような感じにすごく似ていた。
「俺、リズムフェチだったっけ? このままイったら変態だろ……」
こんなに硬くなったことが今まであったかと思うほどに、滾った思いが集まってしまっていた。自然に手が伸びて、楽になろうとしてしまう。
「んっ……も、だめだ。一人でするしか……」
最後の「またやろう。待ってるからね」がイケボ過ぎて、胸がギュッと掴まれるようになったのもまずかった。それを思い出しながら、そろそろと熱の塊を握りしめた。
「あっ……んっ、ふ」
画面に映っていたヤマトの姿を思い浮かべながら、握った手に少しずつ力を入れていく。もうずっと疼いていたから、口から少しずつ溢れていたものだけで、手は滑らかに動く事が出来た。
リズムを取ろうと必死に聞いていたからか、耳が手元からたくさん音を拾ってくる。自分から聞こえる水音に、恥ずかしさと熱の解放への期待が合わさって、腰がゆらゆらと揺れ始めた。
「あっ……やべ、すぐイキそう」
うっすらと開いていく口から小さく声を漏らしながら、きっかけがきっかけだけに恥ずかしさと気持ちよさが混ざり合って、気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。
もうイくことしか考えられなくなっていたタイミングで、気持ちよくて思わず体を捩った。その頭が当たって、動画が再生される。近づいていた耳に、スピーカーからダイレクトに音が飛び出してきた。
——パンっ!
それがちょうど飛び出しそうになった瞬間で、ばっちり揃った、二つの音が完全に吸い付きあった音を聞いてしまった。
「うっんんん……あああっ!」
その音は俺の体の中の『キモチイイ』を全部引っ張り出していく。
体の奥の方から、ずるずると引き出された快感が、あっという間に表に向かって駆け抜けていった。
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