12 / 12

最終話

 部屋には血の匂いが充満していて、ラグが赤系統だったために染みているものはどす黒く、|織《おり》の関係で白い部分が真っ赤になっているところに姫木の上がりポイントが見え隠れしている。  痛いキスを受けて、姫木の腕が佐伯に回った。 「その気にはなってくれるんだな…ここはそそられたか…」  そそられたというか…いつもは現場を後にしてから、家でなり車でなり目に焼き付けた光景で佐伯に身を任せるが、現場でと言うのは初めてでその行為が姫木を熱くして行く。 「匂いが…いい…あっ…」  首筋を噛まれ、声が漏れた。 「ダメだ持たねえ…神楽…すぐに来い…欲しい…んっ…」 「いつも言ってんだろ…お前がこんなになるのは…滅多にねえんだから楽しませろって…」  姫木のハイネックの下から手を入れ、乳首を指で擦り上げる。 「んんっ」  腰が落ちそうになり、それを支えると、佐伯は一度手を引いて、キスをしながら姫木を壁際に誘導した。  姫木から床の血が見えるように、亀谷の頭があった方の壁に押し付け、捲り上げたシャツの下で胸や鎖骨に舌を這わせ始める。 「っ…ぁあ…」  あまり声が出るたちではないが、今日は小さくだが声が漏れその声に佐伯は満足そうだ。 「癖になりそうだな…現場でやんの…」  乳首に舌を這わせ、反応を楽しみながらズボンの後ろに手を差し入れる。  前はもう張り詰めているのは確認済みなので、後ろの確認も…。 「相変わらずゆるく履いてんだな…すぐに手が入っちまうじゃん」  佐伯の大きく無骨な手が、姫木のバックの溝を撫でその間に指が入り込む 「っく…んっ」  姫木の体が跳ね、より強く佐伯にしがみつく。 「いい反応だ…そそるよ譲…俺のもこんな…」  やはり固くなっている腰の前部を、同じようになっている姫木に押し付けて擦り付け、指でバックの穴を刺激してやる 「い…からはやく…早くしろ…来い…よ」 「せっかちさんだなあ今日は…」  姫木を壁に向かせて、後ろから緩いズボンのベルトを外し尻を出した。 「いつも綺麗だよなお前のケツ…」  そこに軽くキスをして舌を這わせる。 「はっ!…っい…やめ…ぁ」  不意のことに姫木は両手を張るが、佐伯は立ち切った姫木の前に手を伸ばしそこをも刺激すると、前後の快感に姫木は壁に戻ってゆく。 「なんだ?ほんと素直だな今日…じゃあ、その素直に免じて…」  立ち上がりながら自分の前も開けると、姫木の背中にピッタリと張り付き 「今日のお前はいいなぁ…俺のももうこんなだよ。いつもよりデカいから覚悟しとけよ」  笑う息と共にそう囁いて、佐伯は姫木のそこへ突き立てた。  声と共に腰が押し付けられ、無意識なのか腰を振って佐伯を奥へと導いてゆく。  普段こんな時でさえ割とイヤイヤっぽいのに、今回は本当に本能全開で求めてくる姫木を、意外に思いながら佐伯も楽しむ。 「どうしよう…俺今日は早いかも……」  自分を上げるには目を開ければいい状態の姫木は上がる一方で、後ろからじゃ満足できないのか、自らズボンの片足を抜いて一旦離れると、佐伯と向かい合い片足を上げて誘い込む。 「お前…本当はそんなやつだったんだな…エロ…」  腰を煽って再び姫木の中へ入った佐伯は、上がった足に腕を掛け壁に押し付けながらキスをして、口の中が鉄の味がするほど舌に噛みついた。  その匂いでますます興奮し、姫木は今までにない声をあげ佐伯に縋り付いて行った。  30分後、黙々と作業をする影は2つ。  姫木はぐったりと壁に寄りかかり、動く気配もない。もちろん身なりはちゃんと整えたし、バレることはないだろうが、佐藤の冷たい視線は佐伯に痛かった。  調子に乗っちゃって、てへっ とも言えず、佐伯は佐藤の指示のもと黙々と血のついたラグを切り、黒い袋に詰め込む作業を続けた。  3週間後、佐伯と姫木は「おさんぽ亭」へと昼を取りに出かけた。 「いらっしゃい」  陽一が迎えてくれて、店には客が多く一安心だなとカウンターへ座る。 「この間はどうもすいませんでした」  陽一は相変わらずフライパンを振るいながら話してきた。 「それはもういいっすよ。全部向こうの責任で収まったし」  セルフの水を持ってきて佐伯が椅子に座り直す。 「指はどうっすか。不便でしょう」 「ん〜なんとかできるもんなんだよな。ちょっと繊細な動きがまだだけど、そんなのはすぐに慣れそうだし」  そういって菜箸を器用にパカパカと広げてみせた。 「戸叶…いや、和也は来てますか?」  あの日病院から帰った戸叶は、今まで遠慮して会わなかったことを反省し、もしも兄貴たちに何かあった時は俺が助ける!と意気込んで、仕事にもますます積極的になりバリバリと音が聞こえるほどだ…は言い過ぎにしても、もう少し家族と交流を持とうと考えたらしかった。 「ああ、子供が順調だからって病院によく行ってるみたいだよ。恵はとっくに退院してるんだけど授乳しに毎日病院行ってて、それに付き添ってるみたいだ」 ーおじバカ発揮しまくりだよーと笑って、ナポリタンを盛り付ける。 「ちょっと出してくるな」  厨房から出て、注文のナポリタンをサラダをつけて店内のお客にもってゆく。  病院に通っているのはわかっている。  なぜかと言えば、あれ以来事務所では戸叶に 「莉央ちゃんみてくれよ〜こんなでっかくなったんだぜ〜」  と、莉央ちゃんと名付けられた赤ちゃんの画像を毎日見せられ、うんざりする佐藤と若い者衆が見られ、佐伯も10回に一回はその話を聞いてやっていたからだ。 「まあ、なんかこう丸く収まってよかったな。お前もさ」  大人しく水を飲んで話を聞いていた姫木も、少し安心したらしかった。 「でもあの時はほんとうにどうしようかって考えてた」 「まあでも、あの日姫木さんが来てくれなかったら、俺は骨の髄までしゃぶり尽くされたわけでしょ?アナタタチそう言う人たちだから」  厨房に戻った陽一は、笑ってはいるがシャレになんなかったすよ、とボソリという。 「結果論だけど、俺もこうして無事だったし気にしないでな。あのままだったほうが怖かったから」  で、注文は?と聞かれ、姫木はあの日食べられなかったオムライスとカレーを注文し、佐伯はカツカレーを頼んだ。      尾崎と兎月は今回の始末を高遠本家で昔ながらの『エンコ詰』でけりをつけたという。  それに立ち会った佐伯に『古風っすね〜』と揶揄われたが、あの時の部屋の惨状とお片付けを見てしまった尾崎と兎月は、絶対に双龍会とは関わらねえ…と、清廉潔白なヤクザを目指すことを心に決めた。らしかった。

ともだちにシェアしよう!