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揺れる

 母が亡くなってから2か月ほど「マスカレード」を休んだ千景は、12月の仮面舞踏会イベントの日、久しぶりに出勤した。  千景がフロアに入ると、マスターをはじめ、スタッフや常連客が千景の姿に気付いて駆け寄り声をかける。詳しい事情を知っているマスターと誠は、涙声で喜んだ。  仮面舞踏会のステージ上には、スタッフが色取り取りに飾った大きなクリスマスツリーがあり、店内はすっかりクリスマスムードに包まれている。クリスマスソングをアレンジしてある仮面舞踏会のダンス曲が更に気分を盛り上げる。これらは最近の千景の沈みがちだった心を明るくしてくれる。 「いらっしゃいませ」    マスターの声を聞いて、千景は客を案内しようと振り返る。店の入り口には、冬馬が立っていた。いつもの仮面を着けているが、じっと千景を見つめているのが遠くからでもわかる。千景も冬馬から目を離せない。 「冬馬さん……」 「あのお客さん、何回も来店してくれたんだよ。千景が出勤してないことを知ったら、そのまま帰っちゃうことがほとんどだったけど」  誠が近付いてきてこっそりと千景に囁く。千景は胸が一杯になり、その場に立ちすくんでいた。緊張で鼓動が早くなっていくのを感じる。 「チカちゃん、ご案内お願いね」  マスターに声をかけられてはっとした千景は、冬馬の元へ向かう。 「こんばんは、お久しぶりです」    緊張を吹き飛ばすように、明るく冬馬に声をかける。冬馬はまだ同じ場所で固まっていた。 「……冬馬さん?」 「チカちゃん……久しぶりだね」    ようやく冬馬が口を開いて、呟くように言った。 「もう会えないかと思ってた」    冬馬の切なげな声を聞き、千景は何も言わずに冬馬の手を掴み、個室へ誘導する。  個室に入り、煌びやかなクリスマスメニューの中から、2人分のシャンパンをオーダーする。普段はドリンクしか注文しない冬馬には珍しく、今夜はクリスマスケーキも追加した。 「――乾杯」 「乾杯、冬馬さん」 「……チカちゃん、お母さんのこと大変だったね」    グラスの中で金箔が舞う華やかなシャンパンを眺めながら、落ち着いた声で冬馬が言う。  母のことは知らないはずの冬馬からの言葉に、千景は驚き目を見開いた。 「冬馬さん、どうして知ってるの?」 「ずっと話すか悩んでいたんだけど……実は、僕は君のお母さんが入院していた病院で働いてるんだ。理学療法士なんだよ。病院で初めて君を見かけてからもう2年くらいたつかな」 「……え?」 「チカちゃん、時々リハビリ室の前の長椅子に座ってただろ?患者さん以外の人があの椅子に座ってるのは珍しいから、気になってて」  千景の呆然とする姿を見つめながら、冬馬は言葉を続ける。 「僕が初めてこの店に来た日、土砂降りだったから通りの向こうにある喫茶店で雨宿りをしていたんだよ。そしたら、どこかで見かけた子がこのお店に入るのが見えて。気になって体が自然と動いてしまったんだ。後をつける感じになって申し訳なかったと思ってる。ストーカーみたいだったよね」    そう言って冬馬は苦笑いをした。 「君は、病院で見かけるたびに表情が暗くなっていくような気がしていたから、居ても起っても居られなくてここに通ってしまったよ」 「……うん」 「でも、本当はもう少し側で支えてあげたかった。ごめん」 「……そんなことない、――僕のこと見てくれてたんだよね、ありがとう。冬馬さん」    そう呟いた千景の目から大粒の涙が零れた。じっと千景の顔を見つめていた冬馬は、ゆっくりと千景の仮面をはずすと、両手を千景の頬にあて、親指で涙をぬぐった。 「チカちゃん、名前を教えて?」  自分の仮面もとった冬馬が真っ直ぐに目を見て囁く。 「……千景です」 「一人でよく頑張ったね、千景くん」 「冬馬さん……」    冬馬はぐっと力を込めて千景を抱き締めた。そのまましばらく、千景は静かにぽろぽろと涙を流していた。    千景のすすり泣きが落ち着いた頃、冬馬は千景の体をゆっくりと離し、小さくて柔らかな唇にそっとキスをした。千景は冬馬のキスを受け入れる。 「……んっ、……ふっ」    千景の甘い声がかすかに聞こえて、冬馬は全身の血液が少しずつ沸き立つのを感じた。 「……ん、は……っ」    冬馬の腕の中で千景の体が脱力し、華奢な躯体は完全に冬馬にゆだねられる。舌を優しく差し込むと千景の柔らかくて甘い舌先に絡ませる。    冬馬の手が千景のシャツをまさぐり、千景の熱くて吸い付くような肌に触れる。 「大きな声は出したらダメだよ」    冬馬の大きな手が背中、腹、胸へと順番に撫でると、千景は体をくねらせる。そして冬馬の指は千景の胸元にある小さな柔らかい突起に触れ、くにくにっと指先で遊んでいると、それは少しずつ硬くなり、きゅっと軽くつねると千景の体が跳ねた。 「ひゃっ……」 「千景くん……」    冬馬は千景を軽々と自分の膝の上に乗せて向かい合った。千景の目には涙が浮かび、赤く腫れぼったくなっている。あまりこういう行為に慣れていないのだろうか。いつもはクールな千景の、もっと乱れた顔が見たいと冬馬は興奮する。  千景の唇を啄みながら、小さく硬く隆起した乳首をこすると、千景は冬馬の首にぎゅっと腕を回してしがみついてくる。 (どれだけ可愛いんだこの子は……) 「んっ……」    千景の熱い吐息が冬馬の首筋を撫でる。  冬馬はSEXの経験は人並みにあると思う。それらの今までの経験は全て偽りのものであったのかと思ってしまうほどの心と体の高ぶりに、冬馬は自分の過去を少し後悔した。    冬馬の足の間の張りつめたものが千景の大きくなったそれと擦れると、全身を快感が駆け巡る。 「あっ……冬馬さん……うぅ」    千景は無意識に腰を前に突き出す。その度に気持ちよさそうなとろけた声が冬馬の耳元で響く。 「冬馬さんも動いて……」    千景の腰を支えて固定し、ズボンの中で膨張した屹立を千景にぐいっと押し付ける。そしてそのまま腰を大きく前後させ、千景を揺さぶる。 「んあっ……きもち……いいっ」    千景は冬馬に跨って揺れている。  お互いズボン越しなので刺激が足りないのか、千景の動きがどんどん大きくなっていく。  千景の額に汗が流れ、濡れた前髪が艶っぽく光る。店で出会った頃はいつも澄ました顔で周りの様子を静かに観察しているように思えた千景が、こんなに乱れた姿を見せてくれていることに感動すら覚える。   (綺麗だなぁ……)    冬馬は我慢できず、千景のズボンのボタンを手早くはずし手を滑り込ませると、透明な蜜で濡れそぼった千景の熱くて硬い茎を蜜で濡らし上下にしごく。手の中でクチュクチュといやらしい音が立った。 「あっ…………冬馬さん、もうそれ以上はダメ」 「いっちゃいそう?」 「うん、我慢できない」    千景の息遣いが更に荒くなっていく。 「いいよ、一緒にいこう」  千景の甘い声が脳に響き全身を駆け巡る。  冬馬は自分の性器と千景のものとを一緒に握ると、しごく手のスピードをあげた。 「もういくっ……んっっ」    冬馬は声を出さないように歯を食いしばりながら達し、千景は小さく数回体をふるわせながら冬馬の手の中に白濁を放った。 「千景くん、好きだよ。ずっとそばにいたい」 「……僕も、冬馬さんが好きです」     お互いの荒い呼吸を感じながら、2人は長い時間抱き合っていた。個室の外では、仮面舞踏会のダンス曲が静かに流れていた。

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