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偏愛《ハルカside》4

このままの勢いで、最後まで欲求を満たそうと試みた。 竜の秘部にゆっくりと指を挿れ、指を増やす。 「…あっ」 竜は3回イッてぐったりしているせいか、反応が少し鈍い。 そんな竜を見ると良心が痛む。 もうここで終わりにしよう。 欲求なんてとっくに満たせたじゃねぇか。 指を抜き、竜と目を合わせた。 「ごめん…俺酔ってた」 竜は綺麗な目で俺を見つめる。 「最後までしていいですよ。でも紐は取って。こんなのレイプと変わらない。俺、逃げませんから…ハルカさんのこと嫌いになりたくない」 意外な発言に驚いた。 俺はきつく縛った紐をハサミで切って竜を自由にした。 そして竜を起こして、包み込むように抱きしめた。 「いや、しねぇから。ごめんな」 「…したくないんですか?」 こんなに竜が震えてるのも分からずに無理矢理しようとしてたなんて。 「いいですよ。最後までしても」 「悪かった。大丈夫だから。ごめんな。ごめん。殴っていいよ俺のこと」 震えなくなるまで髪を撫でて背中を擦って、何分経過しただろうか。 「お前の『嫌なこと』を知れないだけでカッとなってさ。怖かったよな。ごめんな」 酔っていたとはいえ、最低だろ俺。 最低すぎて竜の顔を見れない。 何を話したらいいか分からない。 沈黙が続く。 「ねぇ、ハルカさん…」 竜が沈黙を破る。 「大切な人がもうすぐ死ぬとしたら、ハルカさんはどうする?」 「え…?」 竜は俺の背中に手を回して、ぎゅっと俺を抱きしめる。 俯いて、 涙を見せないように――… 「兄がもうすぐ死ぬんです。…俺は弱まる姿をただ見てるしか出来なくて…」 兄って…確か一つ年上の? だってこの前、母親が亡くなったばかりなのに―…? 竜の体が再び震えた。 零れる涙と、溢れる不安が、震えを通じて俺の体に突き刺さると同時に切なさが乱れる。 「ひー兄がいなくなったら、俺の生きてる意味はなくなるんです。だからそうなったら俺もすぐに死にたい…」 「…」 その瞬間、あの夢が思い浮かんだ。 『《ハルカ…生きているほうが地獄なんだよ》』 違う。 夢じゃない。 アメリカ時代に出会った、3つ上のベーシスト。 俺は彼をとても尊敬していた。 でもアイツは俺が17の時に自殺をした。 とある凶悪事件の犯人と同姓同名ってだけで、誤ったネットの情報で犯人にされて。 一家全員、誹謗中傷されまくって。 家も家族の職場も学校も特定されて。 そのせいで親も職を失い、自分の居場所もなくなり、音楽も辞めてしまった。 「《死にたい》」 何度も死にたいと俺に言い続けて。 でも俺は励ますことしか出来なかった。 「《生きてればいいことある》」 「《絶対死ぬな》」 「《生きろ》」 そう伝え続ければ届くと思って、時差を考え、時間の許す限り励まし続けた。 いつかこの想いが届いて、また俺がアメリカに行ったときに会って音楽を語りたかった。 『《ごめんな…俺、弱くてさ》』 『《お前から生きろ、死ぬなって言われる度にさ…苦しくて。空気はあるのに息が出来ないんだ。この世には行き止まりしかなくて》』 『《ハルカ…生きているほうが地獄なんだよ》』 テレビ電話をしながらそう言って、アイツはそのままビルから飛び降りた。 俺が追い詰めた。 俺の励ましが、余計にアイツを苦しめた。 だから俺は竜に「生きろ」とは言えなかった。 「その選択肢でお前が救われるなら、それでいいと俺は思う」 「―…え?」 「死ぬよりも生きてるほうが辛いやつもいる」 「ハルカさん…」 だから竜を止められない。 止める権利なんてない。 「ハルカさん……泣いて…いい?」 「あぁ」 俺に出来るのは否定しないこと。 側にいてやること。 見守ること。 それだけだから―… 髪を撫でて背中をさすって。 唸るように竜は泣く。 何も出来ないのは俺の方じゃねぇか。 広い部屋に響く泣き声。 竜の声なのに、なぜこんなにも痛いのか。 俺は竜が泣き止むまで、ただ抱きしめるしか出来なかった。 「落ち着いたか?」 「はい」 「いつでも話聞いてやるから」 そう言って俺は顔を見ずに竜の頭に顔を乗せた。 「なんかあったら俺のこと頼れ。半犯しした罰ってことで。遠慮すんなよ」 「ハルカさん明日朝早い?」 「あぁ。8時30分スタジオ入り」 「じゃあ朝、学校まで送ってって」 「お前俺の話し聞いてた?ちなみに俺、朝めちゃくちゃ弱い…」 「半犯しした罰でしょ?」 「ですよね―…7時にはここ出るぞ」 やっと竜が笑った。 そう、俺はお前のその笑顔が好きなんだ。 「…ハルカさんの心臓の音、メトロノームみたい。このまま寝ていい?俺普段寝れてなくて…2時間睡眠とか普通だから…」 「おー、寝ろ寝ろ」 「…おやすみ」 そう言って竜は俺の胸の中で、心臓の音を子守唄にして秒で寝た。 あぁ…寝顔見てぇけど体勢崩したら起きるよな。 写真撮りてぇのにスマホはリビングだわ。 俺は枕を背中に置いてベッドに背を持たれ、この体勢が崩れないように竜を抱きしめたまま眠った。

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