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偏愛《ハルカside》5
体勢のせいと、目の前に竜がいるのと、そんな竜に自分がしたことを思い返すとぐっすり眠れなかった俺は予定の時間になり竜を起こした。
「おはよ、竜」
その声に可愛い俺の天使は顔を見上げる。
その顔は今の自分の状況を思い返しているように思えた。
「―…え?は?うそ、ずっとこの体勢?ハルカさん体痛くない?」
「まぁ半犯しした罰っつーことで。ほーらいくぞ、もう7時だ」
ベッドを降りて解放された腰を叩きながら、朝の支度をし、MY学園へと向かった。
学校の駐車場で、見慣れた顔を発見。
「あ。マサくーんおはよ!兄貴も」
「え?ハルカちゃんじゃん!おっはよー!どうしたの?」
「竜を送りに」
マサくんの笑顔ってやっぱりパワーもらえるよな。
それに引き換え、高身長の隣の黒髪眼鏡は目が冷血すぎんだよな。
「部外者は早く帰れよ」
「相変わらず兄貴冷たっ」
「ねぇハルカさん、8時30分までにスタジオ入りなんでしょ?もう8時だよ?」
「やば!じゃ!また!竜もなんかあれば連絡くれよ!」
そんなこともあって、半犯ししてから竜からよく連絡がくるようになった。
それは相談だったり雑談だったり色々だけど、俺にしてみれば内容なんてどうでもよかった。
竜の特別になれれば、それでいいんだ。
「お疲れハルカさん」
「あれ、竜。どうした?」
「ハルカさん同じスタジオにいるって聞いたから。スタッフの人にケーキもらったんですけど…よければ」
そう言って俺の天使は笑顔でケーキを差し出す。
竜はこう見えて甘いもんは苦手だったりするから、こうしてよく誰かにあげてるらしい。
つぅか俺はケーキよりお前が欲しい。
―…なんて言えない
「サンキュー。…リストバンド身に付けてるの珍しいな?いつもしてたっけ?」
竜の身につけていた黒いリストバンドに目が行った。
リストバンドが黒だから余計に竜の肌の白さが目立つ。
「してないですよ。俺、リストバンドそんなに好きじゃないんですけど…ね」
「へぇ。なら俺にくれよ」
「今はダメ。後であげますよ」
竜はそう言いながら一瞬だけリストバンドを外した。
「あ…」
なるほど。
どうやらこの前俺が竜を縛ったときに、竜の手首に縛った痕がついちまったらしい。
両手にそんなもんがあれば、誰かに何があったか問われるだろう。
「悪ぃ…」
「大丈夫ですよ。もうすぐ消えるし。それよりハルカさんこのあと仕事ですか?」
「いや、終わった。なんだ、どっか行くのか?」
「うん。兄のお見舞いに。ハルカさんも来る?」
俺はその場でケーキを食べてから、有無を言わさず竜についていった。
もうすぐ死ぬという、竜の兄貴に会いに。
病院の独特な匂い。
妙に静かな通路。
温かい日差し。
白すぎる部屋。
そこに竜の兄貴の緋禄がいた。
「ひー兄」
「竜」
初めて緋禄を見た印象は、『白い』だった。
顔は竜より男っぽい感じで、声も竜に似てる。
「ひー兄、哀沢先生の弟のハルカさん。MAR RE TORREのベーシスト」
「へぇ、哀沢の…そういや弟はバンドやってるって前に言ってたな。MAR RE TORREだっていうのは初耳だ」
笑顔の二人。
なぜか俺は話に入れなかった。
竜は絶え間無く緋禄に話しかけていて、俺は上の空だった。
笑顔で人と話す竜を見たことないわけじゃない。
でもなぜか、俺が入れる領域じゃない気がした。
「あ、なんだろ…ちょっとごめん。メンバーから電話かかってきちゃった……はい、もしもし」
竜の携帯が鳴り、慌てて竜は部屋から出ていく。
白い部屋に残されたのは俺と緋禄。
話かける言葉が無く、俺は窓の外を眺めていた。
「俺、もうすぐ死ぬって知ってます?」
沈黙を破った緋禄が俺に話しかけた。
俺はそれに少し驚いて振り返った。
「あぁ…竜から聞いてる」
「俺は死ぬのは怖くない。けど、俺が死んで竜が後を追ってこないかが心配で…。あいつには俺しかいない。っていうか、竜はそう思い込んでるから…」
竜は確かに、死にたいと言っていた。
俺もそれを受け入れることしか出来ない。
でも、やれることはやってみるつもりだ。
傍にいて、見守ることはしてやれる。
いつか、竜の気持ちを変えられたら。
「後なんか追わせねぇよ」
緋禄はその発言を聞いて俺を見上げた。
日に差された緋禄の肌が余計に白く見えた。
「ありがとうございます」と小さくつぶやき、それから緋禄は俺に色々と話してくれた。
なぜ自分がこんな身体になったのかとか、竜の過去とか。
竜は中学にあがった頃に、実の父親に犯されたらしい。
竜は母親に似ていたからっていうのが原因で。
「父さんに縛られたりして、いつも無理矢理だったらしくて。竜は誰にも言えなくて、たまに会う俺にだけ言ってくれて。だから寮のあるMY学園を勧めたんです」
じゃあ竜があんなに感じやすく、連続絶頂してしまう体になったのは実の父親のせいなのか。
なにも知らずに無理矢理、しかも縛ってヤッたらそりゃ震えるよな。
―…反省
竜の異常なくらいの緋禄に対する愛情を、緋禄は不安に思っている。
「安心しろよ。お前の代わりに俺が竜を守るから」
今の俺は、竜を見守ることしかできない。
でもいつか、竜の居場所を俺にしてみせる。
「頼もしい。あ…俺が死んでも、音楽だけは続けて欲しいな。あいつ才能あるから」
まるで遺言を聞いているかのようだ。
「あとは…笑ってて欲しいな」
緋禄の口からは竜のことしか出てこない。
そんなにも愛しくて不安なのか。
大丈夫、俺が守る。
時間をかけて守るから―…
「俺が守るから安心しろ」
「…お願いしようかな。これで心置きなく逝ける」
「あぁ。引き受けるよ」
印象的な笑顔。
自分よりも弟を思う姿勢。
年下なのに、人として尊敬する。
白い部屋に響く緋禄の声と笑顔が、とても優しかった。
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