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偏愛Ⅲ≪竜side≫1

「好きだよ、竜」 ハルカさんとセックスをする度に、優しい笑顔で言われる言葉。 その言葉が、俺の精神安定剤―… ハルカさんと一緒に住むようになって3ヶ月が過ぎた。 体を重ねるようになったのは最近。 「竜、風邪ひくから中に入れ」 ハルカさんに抱かれるのは嫌じゃない。 ハルカさんのことは好き。 でも、恋愛感情とは違う。 「星が綺麗で。雪降るかなぁ?」 「1月だから降ってもおかしくねぇな。雪好きなのか?」 「うん。好き…んっ」 バルコニーで他愛もない話をしているとハルカさんに抱き寄せられ、キスをされた。 ハルカさんのキスは強引だけど、すごく気持ち良い。 先に進みたくなるようなキス。 「竜…体重戻ったか?」 ハルカさんが俺の脇腹の肉を掴んで言った。 「ちょ、掴まないでっ。最近は逆に太ったかも。ハルカさん肉料理ばっかなんだもん」 「人間とりあえず肉だ、肉。もしくは糖分」 ハハハと笑うハルカさんの笑顔が可愛い。 いや、俺がハルカさんを可愛いって言うのはおかしいけど。 すっごいクールな人だと思ってたら、そうでもないみたい。 数学教師の哀沢先生と同じ兄弟とは思えないくらい無邪気。 「何考えてんだよ」 「ん…哀沢先生のこと」 「…なんでよりによって兄貴のことなんだよ」 ハルカさんは俺の発言にちょっと笑った。 そして再びキスをする。 ハルカさんは、何で俺のこと好きなんだろう… こんな汚れた俺なんか―… 「…ん…ふ、ぁ…」 ハルカさんのキスだけで溶けてしまいそうな自分がいるのに最近気付いた。 でもそれは、恋愛感情じゃない。 父とは違う優しい抱き方をしてくれるからだと思う。 「もっと―…キス……」 唇を離す度に白い吐息が漏れる。 そして再び唇が熱を帯びる。 ハルカさんが俺を好きだと知っているのに、止められない。 欲情する俺はなんて最低なんだろう。 ハルカさんとセックスをしたあの日から、何度抱かれたか分からない。 でもハルカさんから襲ってきたことは1度も無かった。 俺のキスが合図になって、そこからいつも優しいセックスが始まる。 ―…けど今日は、 手を引かれ、寝室へと移動しベッドに押し倒された。 見慣れた天井と、優しい顔をしたハルカさんが視界に入る。 「ハルカさんから誘ってくるの…初めてじゃないですか?性欲無いんだと思ってました」 俺の発言に少し目を開くハルカさん。 「いや、本当は毎日抱きてぇんだけど…」 「じゃどうして?別に俺、ハルカさんに抱かれるの嫌じゃないのに」 「…お前気付いてなかったのか?毎回震えてたの」 「俺が?」 ハルカさんが俺の頬を触りながら優しい笑顔で続ける。 「そうだよ。抱く度に徐々に震えは収まってきたけど、最近やっと震えなくなったの確認したから。竜の震えが無くなってから俺から襲うって決めてた」 そうだったんだ。 自分でも、震えてるのは無自覚だった。 「優しいんですね、ハルカさん」 「あの冷血ドSな兄貴の弟だぜ?優しいわけねぇだろ」 そう言って優しくキスをする。 深いキスを何度も何度も。 ハルカさんから初めて抱いてくれるんだ―… そしてハルカさんがキスを止めて俺の顔を見た瞬間、インターホンが鳴った。 ハルカさんが玄関をチラリと見る。 俺を見てくれないことに少しだけ苛立ちを感じ、俺は腕を回してキスをした。 「キス―…続きして…」 俺たちは何回もインターホンを無視してキスを続ける。 キスの回数と同じぐらいインターホンは鳴り続ける。 「ハルー!ハル!ハル!ハールーカー!!開けてよぉ!いるの知ってるんだからねぇ!!」 ドアを叩きながらハルカさんを呼ぶ声がした。 「…あいつ…よりによって今かよ」 ハルカさんは舌打ちをして、キレながら玄関へと向かった。 しばらく経っても戻ってくる気配が無いので、リビングに行くと酔った女の人がにソファーに座ってハルカさんと言い合っていた。 「お前なぁ!来るなら連絡しろって」 「やーだー冷たぁい。久しぶりにハルを慰めてあげようと思ってぇ」 「帰れ!詐欺師!」 女の人は酔ってて、ハルカさんはすごい嫌そうな顔をしていた。 どこかで見たことあるような女の人だ。 「…住谷まりさん?」 そう呟くとソファーに座っていた女の人が俺の存在に気付いた。 「えっ!うそ!竜ちゃん?本物!?かわいー」 住谷さんは俺の近くに寄って来た。 「なんでハルと一緒にいるの?え?」 「うるせーんだよ。黙れ酔っ払い」 ハルカさんは、俺に抱き着こうとした住谷さんをぐいっと引っ張ってソファーへと投げ飛ばした。 住谷さんは人気グラビアアイドルで、よくTVで見かける。 18歳の彼女が、どうしてハルカさんと仲良しなんだろう? 「あ、竜。住谷まりは実は俺とタメだから。こいつ3つ年齢偽ってやがんだよ。詐欺師め」 「ひどーい。中学の時の同級生なんだからもっと優しい言い方してよね。事実だけどさー」 「帰れよ真理奈。彼氏?またケンカか?」 「別れちゃった♡」 『真理奈』と呼ぶハルカさんと 『ハル』と呼ぶ住谷さん なんか胸が締め付けられるような気がした。 「久しぶりにハルのこと癒しにきたのになー。竜ちゃんがいるんじゃ何も出来なぁい」 「マジで帰れよ。つか帰って。お願い」 仲良さそうに話す二人を見ているのは面白い。 けど、 なんか胸の底がズキッとするような虚しい感じがするのは何故だろう。

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