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偏愛Ⅲ≪竜side≫2
「てめ!っざけんな!!邪魔すんな!不味くなる!」
「料理の腕上がったからぁ!…あ、竜ちゃんお帰り!」
学校や仕事から帰ると、部屋には住谷さんがいるのが当たり前になってきた。
「ただいま。どうしたんですか?」
ハルカさんは住谷さんを睨みながら言った。
「からあげ作ろうとしたら、こいつ手伝うっていうから」
「いいじゃーん」
「調味料の種類も分かんねぇやつは失せろ!いいか、竜。真理奈がキッチンにこねぇように見張っとけ」
そう言ってハルカさんはキッチンへ向かって行った。
住谷さんは笑ってソファーに座っている。
目が合った。
何話そう…
「竜ちゃん!実はデビュー曲からJEESの曲買ってるの。soda float可愛くて最高だったよぉ」
「ありがとうございます」
そう言って、新曲購入特典のキーホルダーを見せてくれた。
なんか明るくて話しやすい人だな。
「住谷さんとハルカさんは…どういう関係なんですか?」
「中学の同級生だよ」
「付き合ってるんですか?」
もし二人が恋人だとしたら、俺はここを出ていかないといけないしと咄嗟に思ったからそんな質問をしてみた。
俺はハルカさんのこと好きだけど、それは恋愛感情ではないし。
それに住谷さんは綺麗だからお似合いだと思う。
「付き合ってないよ。だってハル、今は竜ちゃんが好きなんだから。あたしは中学からずっとハルに片思いしてるの。内緒ね」
ハルカさん、俺への気持ちを住谷さんに伝えてるんだ。
「中学からずっと…ハルカさんのこと好きなんですか?」
「うん。でもハルは一途だから。中学の時に告白したけどフラれた。マサくんが好きだからって。マサくんのこと7年間好きだったんだよあいつ」
「マサくん?」
「知らなかった?ハルのお兄さんの恋人。MY学園の英語教師。マサタカくん」
ハルカさんのお兄さんは哀沢先生だ。
その恋人ってことは、山田先生―…?
「17の時にマサくんに告白したけどフラれて、自暴自棄になってたときにあたしがそこに付け入ってセフレ申請して。でもさ、その時ハル何て言ったと思う?」
ハルカさんがずっと山田先生のことを好きだったことと、住谷さんとセフレであるという事実に少し心臓が痛くなり、俺は住谷さんの問いかけに答えることができなかった。
「お前が俺のこと好きなら抱かない、だよ?真面目かよって。キスもさせてくれないし。だからあたしはずっと気持ち隠してる。紛らわすためにグラビア始めた。彼氏も作った」
山田先生とハルカさん。
住谷さんとハルカさん。
俺は何も知らない。
ハルカさんのこと、何も。
「あたしに彼氏が出来てもハルは嫉妬なんかしないの。彼氏いる間は連絡してこないし。諦めた方が楽なのにね」
別に、俺には関係ないのに…
「…竜ちゃん?」
今、俺どんな顔してる…?
「あ―…いや、俺…ハルカさんのこと何も知らないんだなって…」
「ハルは自分のこと隠さずに教えてくれるから、気になることがあったら本人に聞いてみるといいよ」
「真理奈っ…!まだいたのかよ」
からあげをテーブルに置いたハルカさんが、住谷さんを睨みながら言った。
住谷さんはそのからあげを1つ摘まんで、食べ終わってから言う。
「ハイハイ、もう帰るわ」
「明日からは来るなよ」
「じゃ竜ちゃんおやすみー☆」
「てめぇ、無視かよ…」
そう言い残して、住谷さんは帰った。
静まる部屋。
時計の秒針が聞こえる。
「ハルカさん…山田先生のこと好きだったんですか?」
「何でそれ…あぁ真理奈が言ったのか。まぁ…そんな時期もあったな。兄貴さ、21のときに一時的に記憶喪失みたいになって。マサくんのこと忘れたんだよ」
否定もせず、話しながらテーブルに夕食を運び準備をするハルカさん。
「チャンスだって思ってマサくんに告白したけど玉砕。結局、兄貴の記憶戻ったから、もしマサくんと付き合ってたらぶっ飛ばされてたな。想像しただけで震える」
哀沢先生がずっと記憶喪失だったら?
今もし山田先生の心が変わったら?
「俺のことなんてどうでもいいだろ。さ、食べようぜー」
7年間もずっと想ってたのに、そんな平気な顔して笑えるんだ。
「いただきます…」
「なぁ竜。俺のことは俺本人に聞けよ?何でも話してやるから。噂話とか当てになんねぇし」
「はい」
―…俺は山田先生の代わりなの?
そんな簡単なことすら聞けなくて。
いつものからあげが、なぜだか今日は美味しくなかった。
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