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偏愛Ⅵ≪ハルカside≫3

「離してっ!!」 竜が持っていたビデオカメラが地面に落ちて、俺だとは気付いていない様子だった。 「竜!!」 恐る恐る顔を上げて俺を見た竜は、とても驚いた顔をしていた。 「…ハルカさん!」 「竜、大丈夫か!?」 「どうしてここが…」 そして俺の姿に安堵した竜の目から涙が溢れた。 「…っ、ハルカさん!」 「遅くなって悪かったな。迎えにきた」 「会いたかった。ハルカさん…」 俺は震える竜を強く抱きしめた。 すると後方から、あいつの声が聞こえた。 「竜…いけない子だなぁ」 「父さん…」 竜は落としたビデオカメラを拾って、体を震わせながら口を開いた。 「父さん…俺、この映像を警察に提出するよ」 「そんなことしたら、JEESの竜が変な目で見られるよ?仲間に迷惑がかかるだろう?返しなさい」 過呼吸になりそうなぐらい震えている竜の手を俺は握り続けた。 「むしろ大手製薬会社の幹部が息子を長年レイプしてたなんて、父さんの方がヤバいんじゃない?」 竜が言い返すと予想していなかったのか、父親は驚いた表情を見せた。 更に竜は続ける。 「ずっとあなたが嫌いだった。憎かった。犯されるのが嫌だった。だからこの家から出たかった」 「いや…何を言っているんだ?竜だっていつも気持ち良さそうに受け入れてたじゃないか」 「縛ったり、薬を使って無理やりしてたのに?俺はずっと我慢してたよ。嫌だった。気持ち悪かった。消えて無くなりたかった」 涙を流して、 声を震わせて、 握っている手にも汗をかいて、 それでも竜は勇気を出して父親を見つめて話し続けた。 「だから…あなたがひー兄と母さんに酷いことをしてから…俺をレイプし始めた時から…あなたを父親だと思ったことは無いよ」 「どうした竜?一度家に戻って頭を冷やそう」 「死んでしまいたいぐらい辛かった時、傍にいてくれたのはハルカさんだった。だから俺は生きていたいと思えるようになった」 相当な恐怖だったんだろう。 この父親に立ち向かうことは。 でも俺がいるから。 大丈夫、必ず守るから。 だから勇気を出せ、竜。 「あなたがいなければ俺はハルカさんに出会えなかった。ひー兄の弟になれなかった。それだけは感謝しています」 声を振り絞りながらしっかりと父親の目を見て、涙を流しながら自分の気持ちをぶつけている。 そうだ、全部ぶつけてやれ。 お前はひとりじゃない。 「でも本当にそれだけです。あなたの息子はいなかったと思ってください。俺に父親はいません」 お前には俺がついてる。 大丈夫、あと少しだ。 「俺は、ハルカさんと生きていきます」 「ふざけるな!竜!」 怒った父親は竜に近づき手をあげようとしたため、俺がその手を掴んだ。 力の無い手だな。 今すぐにでも折れちまいそうなこんな手で、数年間竜を苦しめたのか。 あぁ、ムカつく。 「もう手遅れですよ。竜の中からあなたという人物は消されています」 「放しなさいっ…!」 俺は掴んでいる手の力を更に強くした。 「竜は俺が守り続けます」 「ふざけるなよ…貴様ごときが竜と一緒になることなんて許さない!竜は僕の物だ!ずっと愛し続けて体も愛して癒してあげるんだ!さぁ竜、こっちに来るんだ!」 近所の目も忘れて、父親は大声で叫んでいる。 あーらら、可哀想。 俺のネックレスで録画されてるとも知らずに。 俺はため息をついて、父親の手を放し、自分のポケットからボイスレコーダーを取り出して見せた。 「残念な親だな…。今までの会話録音してるから。警察に駆け込んで、家のパソコンのデータや残りのDVD見つかったらヤバいよ」 まぁ、録画もばっちりされてますけどね。 「行くぞ、竜」 力の抜けている父親の腕を振り払って、竜の手を引いて歩きだした。 父親は追いかけてくることもなく、呆然と立ち尽くしていた。 俺は待機してる兄貴たちの車へ向かい、運転席の窓を叩いた。 「お待たせ」 「長ぇよ」 「あ…哀沢先生…山田先生も」 「竜くーん」 「お疲れ様。帝真。乗れ」 「はい」 兄貴に言われた通り俺たちは車に乗り、俺は後部座席から運転席に身を乗り出して兄貴に言った。 「うちまで」 「うぜぇ。俺を足に使うとは。高いからな」 そう言うと、車を出した。 「ハルカさんどうしてうちが分かったの?」 「いつか必ずこういう時が来ると思ってた。だから常にGPSとボイスレコーダーは持ち歩いてた。竜の荷物を取りに戻ったあと、トランクに荷物入れる時にこっそり取り付けたんだ」 まじでこんなに早く竜の父親が動くとは思ってなかったから、早めに色々準備しておいてよかった。 マサくんと兄貴に感謝。 事前にGPSの登録とか、自分たちのパソコンにも連動できるようにしておいてくれて。 「で、アイツの車が移動してどこかに出かけるのをずっと待ってた」 「夜からずっとうちに来てうざかったんだよな」 「なーに言ってんの哀沢くん。真剣に相談乗ってたくせにさぁ」 マサくんがいなかったら、今もずっと竜とアイツは家にいただろうし本当に感謝すぎるぜ山田財閥。 「竜くんは学費も卒業まで払ってるし、芸能枠だから今まで通り自由な感じで退学にはならないって理事長が言ってたから大丈夫だよ」 「山田先生…ありがとうございます」 車内でみんなが和んでいるにも関わらず、竜は泣きそうな顔をしている。 俺はそんな竜の顔を胸によせて、まだ震えている竜の手を優しく握った。 しばらく走ってから、俺のマンションについた。 「サンキュー兄貴、マサくん。今度飲みおごるから」 俺が先に車を降りて、少しして竜も歩きだした。

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